閑話83 お尋ね
【檜葉胡桃視点】
それは数ヵ月前のこと。
「こんな時期に行かせることになってすまんな……」
「いえ、お父様、お母様、お元気で!」
「胡桃、大丈夫かしら?」
「大丈夫ですの!お友達もいますもの!」
五国会議で王家が出払ってから、国内の警備は厳しくなっておりました。
「牡丹、蜜柑!今からとても楽しみですのよ!」
「ええ、胡桃様!」
「聖女学園……」
第49代聖女檜葉雅様。
梛の国を建国した樹雫様の一代前の聖女様であり、政の苦手な雫様は雅さまにすべてお任せになり、そのおかげで子孫である我が檜葉家は代々栄誉公爵家として樹家に仕えることを許されているのです。
そんな聖女様に縁のあるワタクシ達が、聖女学園に通うというのですから、これも運命だということです!
お母様は大層心配しておりましたが、メイドと料理人と執事と仲の良いお友達を連れていくのですから、何も心配はいりません。
「入試、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫!ワタクシ達は、これだけ準備したのです!」
心配をする牡丹を宥め、私はキラキラに満ちた私達の行く末を見やると、突然頭の中に金髪の女の子の映像が写ってきました。
「い、今のは……!?」
「ワタクシ、知っていますの!あれは、お尋ね者の証ですの!」
これこそ雅様のご提案なされた、梛の国のセキュリティシステム。
お尋ね者を見つけた警備隊が証拠となる映像魔法をリレーしていくことで、広範囲に瞬時に情報を共有するだけでなく、近くに住む国民達にも注意喚起をすることができる、まさに一石二鳥。
このおかげで、梛の国は犯罪者や危ない魔物もすぐ捕まり、セキュリティ国家となったのです。
「お嬢様方、今見た者には十分お気をつけを」
執事が私達に注意を促しました。
ここまで来て、犯罪者のせいで学園に行けないなどあり得ません!
「私はお尋ね者なんかには、屈したりしませんものっ!」
身なりの整った可憐な女性でしたが、見たことがありませんから、恐らく他国の貴族でしょう。
ですが、悪いことをしようとしたって無駄です!
雅さまのこのセキュリティがある限り、逃げることは不可能ですの!
私達は梛の国をしばらく去りますが、きっとお尋ね者は捕まることでしょう。
それから私達は勉強の甲斐あってか無事、聖女学園の入試に合格しました。
Sクラスにはなれませんでしたが、寮生活をするわけでもありませんし、Aクラスで何も問題はありません。
「へぇ~、クルミちゃんは梛の国の出身なのね!」
「そうですのよ!平和でいい国ですの!それに、和食がとっても美味しいことで有名で、『聖女様の懐かしの味』が集まる国なんですのよ!」
早速お友達も出来ましたし、学園生活は順調そのものでした。
ですが、移動教室で二年生の教室を通りかかったとき、そんな学園生活が瓦解する出来事が起きたのです。
「ああっ!?あなたはあの時のっ……!?」
あ、あのお尋ね者が……!
ど、どうしてここにいるんですの……!?
まさか、梛の国のセキュリティを抜けてきたのでしょうか……?
そんな犯罪者が呑気に学園生をしているだなんて……!!
私の中の正義の心が、あの者をなんとしても捕えろと言っています。
「何者か知りませんが……梛の国を侮らないことです……!」
檜葉公爵が娘、この檜葉胡桃が必ずやあの者の悪事を暴ききってみせますの!!




