第311話 量産
休日明け。
学校に来ると、リリエラさんが僕のところに来る。
「リリエラさん、どうしたんですか?」
「『どうしたんですか?』ではないです!まさか、三年の先輩方の講師をされるなんて……!」
「あっ……」
「ねぇ、シエラ先生?」
「う……」
そういえば、あの後は他の3年生のクラスを教えていたから、教室に帰っていないんだった……。
事情を話しているシェリー達に説明は頼んだけど、それでも怒ってるよね……。
「も、もう……。隠し事は、なしって、言ったじゃないですか……!」
「ごめんなさい」
リリエラさんはそう言いながらも、何故だか笑みを浮かべていた。
「?」
「ふふふ。なんだかシエラさんがお父さんで、リリエラさんがお母さんみたいですわね」
「また痴話喧嘩ですの?ふふ、本当に仲がよろしいのね」
クラスメイトから野次られるも、僕はノエルさんの『シエラさんがお父さん』の言葉に恐怖を覚えた。
だ、大丈夫……。
真意に気付いているわけではないはず……。
「リリエラさんは、親友の貴女が先生方に評価されていてとっても嬉しいのですわ」
「ちょっと、ノエルさんっ!!」
リリエラさんはノエルさんに言われたことが図星のようで、隠しきれずにいた。
「そ、そうなのですか……?」
「……っっっっ!!」
顔を真っ赤にしたリリエラさんが可愛らしい。
ルークさんが見るよりも前に男の僕がこの顔を見てしまっていることに罪悪感を覚えてしまう。
いや、それ以前に……僕はまずリリエラさんとしてしまったキスの件を謝らないといけないんだけれど……。
とはいえ二人はまだ婚約者なのかすら曖昧な状態なので、今謝るのもおかしな話なんだよね……。
ルークさんのことだから、今言ってしまえば「では私は婚約を辞退します」などと僕に気を遣いかねない。
いっそ墓場まで持っていった方がいいのかもしれない。
涼花様のことといい、僕、墓場まで持っていくこと絶賛量産中なんだけど……。
「だって、あんなに先生方にも目の敵にされていたシエラさんが……やっと先生方に認められたのですわ……!」
花柄の可愛らしいハンカチで目元を拭うリリエラさん。
ああ、端から見るとそういうストーリーが出来上がってしまっているのか……。
話の半分以上が嘘っぱちだと思うと、胸が締め付けられる思いだ。
先生方には僕の正体を明かして懐柔したようなもんだからね……。
学園長にはめられたとはいえ、裏でやっていることは悪役と紙一重なことだと思う。
リリエラさんの純真さに、僕はそのうちかき消されてしまうのではないだろうか?
そもそもこんな闇を抱えた男子が、光魔法のトップである聖女でいいの、エリス様……?
「今日もお仕事ですか?シエラ先生」
「もう、リリエラさんまでそんなこと言わないでくださいよ。ただでさえ三年生の先輩方に言われてて恐縮しているんですから……」
教室から出ると、急にどさっと倒れる音がした。
振り向いた先で尻餅をついていたのは、見知らぬ紫髪の女性だった。
「ああっ!?あなたはあの時のっ……!?」
その一言は、また僕の平和な日常が壊れていく効果音のようだった。




