第302話 分担
無属性魔法の『描画』は本来絵を描くもの。
それを応用して文字を描画してしまえというのが僕の考えだ。
赤ちゃんの目の前の空間に文字が浮かび上がってくる。
端から見ていると結構シュールだ。
『ふぉっふぉっふぉ、では我が真髄……教えて進ぜよう』
真桜ちゃん、時々ふざけ方が迷子になってない?
真桜ちゃんから知らされた真実は、僕にとって新しい概念だった。
いつも使っている魔法陣にきちんと意味があるなんて……。
いや、まあランダムなわけはないんだろうけれど……毎回若干違うから覚える意味はないと思っていた。
真桜ちゃんによると、この世界の魔法陣は四等分して意味を持たせているらしい。
右上から時計回りに『杖』、『威力』、『範囲』、そして『魔法』。
それぞれを指定することで魔法陣が完成して魔法が放たれるという原理だ。
『杖』、『威力』、『範囲』については普通に使うよりも魔力を多く注げばワイルドカード指定――トランプのジョーカーみたいに指定ができるらしい。
その既知の情報から真桜ちゃんは『魔法』も同じように魔力を多めに注げば魔法陣を書き換えることができると仮定し実践したそうだ。
というかそれを解析できるだけ暗記して引き出せる真桜ちゃん……もとい真さんの記憶能力、凄すぎない?
そのうえ手に『杖』を持っていなかったからって、自分の身体自体を『杖』に指定して魔法を放とうとするなんて、前代未聞だ。
「真桜様、少し気になったのだが……」
『エレノア女史、なんだね?』
「等分すれば、複数人でひとつの魔法を行使することができるのではないか?」
確かに、理論上はそうなる。
『できないことはないと思うけど、難しいと思う。魔法陣はただ描画させるだけじゃ駄目で、時計回りにスキャンさせていかなければいけないから』
「す、すきゃん……?」
あっちの世界にしかない概念だよ、それ……。
「時計の針が0時から右回りに回るように読み込ませていく必要があるということです。分担した場合、それが繋がっていくように各自発動のタイミングをずらす必要があるってことですよね?」
『流石我等がソラきゅん』
なんか貶されてない……?
「それじゃあ完璧にタイミングが合わないと魔法が発動しないということか」
合成魔法はただ2つの魔法陣を重ね合わせるだけのもの。
クラフトのように魔法も魔力を与えるギフターと魔法を使う方に分担できると思うけど、そもそも魔法陣を分割しようとはだれも考えないもんね。
「だがよく考えると、魔法陣を書いてから詠唱するまでに数秒ラグがあっても発動できるはず。もし完璧にタイミングを合わせる必要があるなら、『魔法』の指定の段階で"詠唱"のタイミングが完璧でないと発動しないことにならないか?」
エレノアさんの疑問は僕たちの疑問の答えに行き着く最後のピースだった。
僕はエレノアさんと顔を見合わせると、お互いにうんと頷く。
両手に『漆黒のワンド』を3つ取り出しひとつをエレノアさんに渡す。
そして簡単な『灯り』を左手で発動し、その魔法陣を右手で映像魔法で撮る。
それを左手で映すと、僕はエレノアさんに提案する。
「この魔法をやりましょう。私が後半をやります」
こくりと頷いたエレノアさんは『灯り』の魔法見ながら魔法陣をちょうど右半分まで描く。
わざと遅れて僕が続きを描くと、詠唱もされずに僕の右杖が光輝いた。
「これが、魔法陣の分担……!」
「おお、案外簡単にできましたね」
「きゃっきゃっ!」
「ソラ君、真桜様、キミ達はもうちょっとこのことを重く受け止めた方がいいと思うよ……。これは、この世界の大躍進に繋がる研究成果なんだから……!!」
エレノアさんは興奮を押さえられずにいるようだったが、対して真桜ちゃんはそれほど興味なさそうにしていた。




