第298話 紹介
先生方は帰り、僕達だけが残される。
「改めて朱雀寮にようこそ。まずは自己紹介からしましょ。私は寮母のフローリア」
「ボクはエレノア・フィストリアだ。まあとはいっても明日にはここを去る身だけどね」
「エ、エレノア王女殿下……!?」
「そうかしこまらなくていいさ。ここにはシエラ君もいることだし、入り浸りに来るさ」
「そんな堂々と不法侵入宣言しないでくださいよ……」
ワープ陣置いておいてなんだけど、本来学園には外から来るもんだからね?
「私は三年のミア。またいっぱい寮生が増えて嬉しいわ!宜しくね!」
一昨年はミア様とエレノアさんと三年の先輩だけだったらしいからね。
「二年のシエラ・シュライヒです」
「ちょっと!聖徒会副会長だということも言っておかなきゃ!」
「それを言うなら、ミア様も広報委員長でしょうに……」
「ら、来年の聖徒会長様ですかっ!」
副会長は必ず来年の会長になる制度、悪しき文化では?
副会長に任命されてから性格変わってダメ人間になったらどうするの……?
というかその前に、男が女学園の聖徒会長になるのは大丈夫なの……?
「ど、どうしよう……わ、私が聖徒会長になるなんて……」
「ぷっ……今更気付いたのかい?自分のことになると無頓着で客観的に見れないのも美徳だけれど、少しは気にした方がいいんじゃないか?」
う……返す言葉もない。
「シエラ様のメイド、エルーシアです。二年で聖徒会書記を務めております」
「エルーちゃんはこんな可愛い見た目してるけどSランク冒険者、『水の賢者』様なのよ?ほら初対面なんだから、もっとアピールしなくちゃ!」
ミア様、いいぞ。
エルーちゃんはもっと評価されるべきなんだよ。
「は、恥ずかしいですから!そ、それにシエラ様の方こそ、Sランク冒険者で『乙女の秘……』」
「わ、わーっ!わーっ!」
こ、こっちに飛び火させないでよっ!
「え、Sランク冒険者様が、お二人……!?」
「あれ?ハナちゃん、さっきは私のこと知っているような素振りだったけれど……」
「先ほど先生方にお伺いしたら、『治せるのはシエラさんくらい』だとお二人とも口を揃えていらっしゃったので……」
あ、ああ、そういう……。
「先生方からも信頼されていらっしゃって、その上次期聖徒会長でもいらっしゃるなんて……!」
「その上、毎度のテストでは満点を取る天才なのよ」
「……!」
……ああ、余計なことを……。
そんな僕の仮面の表面だけを綺麗に見せようとしなくても……。
実際の僕なんて、そもそもここに居ていいような人間でもないのに……。
僕の念が通じたのか、皆の視線は次の人へと向く。
「ソーニャ」
「……あの、それだけですか?」
「ん」
そっけないのは猫っぽさから来るものなのだろうか?
流石にそれでは自己紹介になっていないような……。
名前伝えただけになってるよ?
「冒険者。Cランク、上がった」
「いつの間に上がったんですか!?」
「サプライズ。いえーい」
無表情でピースを作っているけど、相変わらずなに考えてるのか分からないな……。
「ソラ様の養子、シェリルよ」
「ソラ様の養子、セラフィー」
「だ、大聖女様の……!」
確かにすごい人達の集団なのかもしれないけれど、一回一回きちんと驚くハナちゃんが可愛らしい。
「さ、次は一年生のことを教えて!」
「嶺忍。シエラ様の性奴隷です」
「っ!?」
……一人目から濃いのが来たな……。
「っ!こら忍っ!またそうやって誤解を招くことを……!」
もうどこからツッコんでいいのか分からないよ。
「ほ、ほら……ツッコむアナはこちらにありますよ……!」
スカートをめくって下着をずらそうとする忍さんに、神流ちゃんが止めに入る。
メルヴィナさんといい、どうして君たちは僕の思考を読んでくるのかね……?
「黙っていれば、忍ちゃんも可愛らしいのですが……」
「くっ……まさか口が回ることを咎められるとは……」
口は災いのもとだよ。
神流ちゃんが一緒に入学してくれて、本当によかった……。
「嶺神流です。これで同じ嶺の名字を背負っているのがソラ様に顔向けできません……。私はこの変態とは一緒にしないでいただきたい」
「分かってます、神流ちゃんは素敵な人ですよ」
「ああ、シエラ様……!」
「くぅっ……よりによって神流に寝取られるなんて……!」
そもそも忍さんと付き合ってないから。
「自業自得」
ソーニャさんの辛辣な一言が刺さる……。
「くっ……殺せ……!」
そう言いながら頬を赤らめて期待の眼差しを向けるのはやめてよ。
……それも聖女紬さんの漫画の知識なの……?
「……ぐう」
「ネ、ネル様、ネル様!ネル様の出番ですよ!」
ね、寝てる……。
「すみません……。ネル様は昔からお体が強くなくて、よく寝る癖がついてしまって……」
そうだよね……。
これだと基本寝てばかりであまり一日を楽しく過ごせられないよね。
余計なお節介かもしれないけど、原因を見つけちゃったからには何とかしてあげたいなぁ……。
「ほら、挨拶してください」
ハナちゃんに起こされ、人形のように操られている……。
それでいいのか、公爵令嬢……?
「ネル・グレース。シエラ様、ありがとう……むにゃ」
「お礼の途中で寝ないでくださいよぉっ!」
朱雀寮は、なんとも愉快なメンバーが集まるなぁ……。
いや、僕がいえた義理ではないか……。




