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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第38章 右往左往
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第297話 神樹

「シエラさん、保健医として後学のために教えて欲しいのですが、聖国に来たことがネルさんの体調不良の原因とは、いったいどういうことでしょうか?」


 アニス先生がずずいと僕に寄ってきた。


「まず前提としてハイエルフ族が魔力視のために魔力を常時消費しているように、精霊族もまた自分の体を維持するために魔力を消費していることはご存じですよね?」

「ええ。精霊族は水や火そのものを身体にする種族。ですがそれだけだと形を保てないので、魔力で皮膚や骨格を作って人と同じように体を保っています」


 これは学園でも習う、基礎的な知識だ。


 彼らはその身体の中に便利な「魔道具」を持っているようなもの。

 しかし、「魔道具」ということは、生きているだけで魔力を消耗するということ。


 エルフの「魔力感知」はからだの一部である手とか足とかの皮膚に薄く現れる。

 ハイエルフの魔力視になると両目になるけれど、それでも範囲は目だけだ。

 彼らにとって「魔道具」である部分は全体のごく一部だから、消費が自然回復を下回る所謂「魔力欠乏症」になるのも、魔力量が少ない幼い頃だけで済むことが多い。


 だけど精霊族は身体の皮膚全体や骨格、筋肉など人でいられるすべてを魔力に任せている。

 人体の60%は水分で出来ているが、精霊族の場合はそれが水や火になり、残りの40%をほぼ魔力で補っているほか、例えば火の精霊であれば火が消えないように燃料として費やしている魔力も別で必要になる。


 それだけ他の種族より魔力の消費量が多くなる精霊族は、どうやって魔力を集めているのか?


「そんな精霊族が南の国に集まる理由はどうしてだか知っていますか?」

「それは、南の国の王族だからじゃ……」

「違います。南の国は他の国より魔力の(もと)である魔素(まそ)が溜まりやすい国だからです。魔素が溜まりやすい場所では、魔力の自然回復量が高いんです」


 魔法を使わずとも自然と消費してしまう彼らにとって、魔素が溜まる場所はいわば「生きやすい空間」。

 生きやすい環境を自然と選ぶのは、種族としての本能から来るものだ。


 そして寿命という概念がほとんどない精霊族は南の国で長く生き、次第に国のことに詳しくなり王族となったのだろう。


「なるほど、そんな理由が……。ですが、そもそもどうして南の国ソレイユでは魔素が溜まりやすいのでしょうか?」

「あそこには、国の中央に大きな神樹が立っているでしょう?」

「まさか、あの神樹が魔素を発生させていると?」

「はい」


 魔素の存在はあまり知られていないのかな?

 まあ魔素の状態では魔力視でも見ることはできないからね。


「……!」

「ネル様!」


 そうこう話しているうちに、ネルちゃんが本来の形を取り戻してきた。


「もう大丈夫ですね」

「えっ、まだ回復しきれてな……」


 僕は魔水晶をしまうと、秘薬を取り出す。


「さ、飲んでください」


 口さえ戻ってしまえば、秘薬でどうとでもなる。


「もが」

「そんな、無理矢理……!」

「ほら、飲んでください」

「これは薄い本の導入……」


 シェリーは人一倍本を読むけど、ちょっと守備範囲が広くないかな……?

 お義母さん心配だよ。


「シェリル様とは気が合いそうですね。是非お話を」


 忍ちゃん、シェリーを汚さないで欲しい。


「ぷはぁ」

「無事みたいですね」

「ネル様っ!」


 がばぁとネルちゃんに飛び付くハナちゃん。


「ハナ……」

「し、心配したのです!本当に、良かったのです!」


 感情が露になると「のです」になってしまうようだ。

 でも、何事もなくてよかった。

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