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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第37章 疑心暗鬼
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閑話77 推し活

柚季(ゆうき)真桜(まお)視点】

 赤ん坊の一日というのは、結構退屈だ。


 意志疎通はできるとはいえ、あまりわがままを言いすぎるのもお母さんに申し訳ない。


 だから赤ん坊のうちはお母さんの近くで暇を潰すことが、私に課せられた使命のようなものだ。


「……もう少し、もう少しですよ!」


 だからこうしてカーラとブロックタワーで遊んであげるのもまた、私の仕事の一つだ。


「「あ、ああぁ……」」


 私の手とともに積み木は無惨にも倒れていく。

 まだ0歳なのだ。

 手も大雑把に動かせるだけ褒めてほしいくらいだ。


「また組み立てますよ」

「今度こそいけますよ!」


 カーラもセリーヌも、私には甘々だ。

 溺愛されているのはわかるけど、転生でなければ見事なおてんば娘になっていたことだろう。


 ……しかし、同じことの繰り返しには飽きた。

 すると、コンコンと扉が叩かれた。


「サクラ様、真桜様、失礼いたします」


 部屋に入ってきたのは、確か……ルークという男性執務官。

 優しそうなインテリ眼鏡さんだ。


「どうしたの?」

「お帰りになられました」

「やっと帰ってきたのね。なら、早く会いに行きましょ」

「?」

「もう一人の聖女様にね」


 そういえば、もう一人同郷の地球人がいるって言ってたっけ……。

 どんな人だろう?


 仲良くなれるかな?


 私は期待に胸を膨らまし、お母さんにおぶられて向かう。


 そこにいたのは、なぜか私が見知った顔だった。


「ほら真桜、これが私たちの命の恩人、同じ聖女のカナデ・ソラちゃんよ」


 え……?

 お母さん、今なんて言った……?


 あのさらさらした黒髪、()()()()()()()見た目。

 私が知らないわけがない。

 あの有名動画投稿者、そらいろちゃんねるの主。


 いつも姉からの無茶振りで色々な女装をさせられるだけのちゃんねるだが、如何せんどの衣装も可愛くて女の私でも羨ましいほど。

 「ソラきゅんとなら男同士でもいい」、「この顔なのに、ついている」など、男女ともにウケがよい。


 行方不明になってから虐待が発覚して大変なことになっていたところまでは知っているけれど、まさかこの世界に来ていたなんて……!

 というか息をするように女装してるし、聖()扱いされているし、色々と大丈夫なの……?


 まさかの有名人に、もちろん全動画()()()()の私は事前に何の準備もできなかったせいか、どうしていいか分からなくなっていた。

 動画の向こうの遠い存在が、急に目の前に現れるなんて……。

 そんなん、もう推しよ……。


「つまり、真桜ちゃんと会話ができるということですか?」

「そういうこと。しゃべれるようになるまではまだかかるから、それまではこれで会話するしかないわ」

「いや、赤ちゃんと会話できるだけでもすごいと思うんですけど……」


 私こそ、推しと話せるなんて感激してしまう……!


「だからソラちゃんの誕生日プレゼントの一つとして、真桜と会話する権利をあげるわ」

「はい、真桜様……」


 セリーヌが提示してきた50音の表が一枚にまとめられたA4サイズのプラスチックカードで、私が思い付いたのは、履修済み(ファン)であることを伝えることだった。


 私は指を5つ指し示し、「おはとのこ」と答えた。

 「おはよう」と「男の娘」の複合語、ソラきゅんが動画の始めに必ずつける挨拶だ。


「おはとのこ……?何それ?」


 母上、未履修とは残念だ……。


「真桜ちゃん……その話はっ!」


 わ、わぁ……間近で見ると凄く可愛い。


「誰にもっ!絶対にっ!内緒ですっ!わ、私との約束ですよっ……!!」


 恥ずかしかったのだろうか?

 そんな疑問は、次の一手で霧散してしまった。


「真桜ちゃん……お願いします。その話だけは、やめてください……」


 0歳児に、土下座している……。

 あ、そうだ。

 ソラきゅんは向こうの世界でいじめられ、嫌々させられていたことが分かっている。

 それを思い出させるようなことを言ってしまうなんて、私はファン失格だ……。


「ええと、『ち』……『が』……『う』……?」

「『た』『だ』『の』『ふ』『ぁ』『ん』……」


 私は体力の限り必死に取り繕うと、最後に「あくしゅ」と伝えて握手を交わした。


 そしてまた(眠気)には勝てず、意図せず深みに落ちてゆくのだった――

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