第293話 真髄
ソフィア王女は肩にネクスを乗せていた。
大方、ネクスの煉獄炎で岩を溶かしたのだろう。
それほどまでに切羽詰まっていたということだ。
「いつつ……」
「大丈夫ですか?」
ルシアさんのもとに駆け寄るソフィア王女。
「一週間で、あんなに強くなるの……?あんなの、化け物じゃない……」
「ソラ様は化け物製造機ですから……」
化け物製造機て……。
なんだか、さっきから僕が遠回しに化け物だって言われているようでつらいんだけど……。
「化け物には、化け物を合わせるしかないわ!」
「私が流れを作ります。合わせてください。フェネクス様!」
「キィーッ!」
ネクスが鳴くのに合わせて飛び立つ。
「来たわね。そうはさせない……!」
サンドラさんは右手の岩の拳を解除しボトボトと地に落とすと、聖棍ユグドラシルを地面と水平に向けて両手で構える。
「――剣山刀樹――」
ユグドラシル・ドラゴンのドロップ品である『ユグドラシルの枝』からクラフトできる聖棍ユグドラシルは最高レアなだけあり『聖剣アルフレッド』などと同じく別モードを持っている。
魔法の威力が25パーセント上がるほか、聖棍を魔力の限り無限に延ばすことができ、そして無限に増殖させることができる。
「な、なんなのよ、あれ……!?」
「とてつもない魔力があの武器に吸われている……?」
そっか、魔力視だとそんな光景が見えるんだ。
このゲームをやり込んだ廃人の身としては、その光景は見てみたかったな……。
伸縮が可能となり白い湯気を放つ聖棍を伸ばして真ん中から二つに割ると、聖棍が二つにわかれる。
それを右手と左手に持つと、サンドラさんは片方を地面に突き刺した。
するとまもなく地面から槍のように無数の聖棍がにょきにょきと生えて二人に襲いかかる。
「危ないっ!」
「きゃあっ!」
ルシアさんに庇われて直撃を避けたソフィア王女。
「ですが、地面にいれば聖棍の餌食ですよ」
サンドラさんが地面に突き刺した聖棍は、土の中でまるで根っこのように無限に増殖し、そして地面から無造作に生えて攻撃してくる。
「くっ!」
その射程範囲は魔力がもつ限り無限大。
「フェネクス様っ!」
それにいち早く気づいたソフィア王女は、ネクスを呼ぶとルシアさんを抱えて跳躍する。
「キキィーッ!」
ネクスは炎の体を広げて巨大化し、二人を乗せる。
「予想どおり空中に逃げましたね」
「予想どおり……?そこまで考えられていたのですか?」
「ええ。ここからが修行の成果ですから」
実は決戦の舞台をここ精霊の森にしたのはハイエルフが住んでいるということもそうだけど、もう一つ理由がある。
この精霊の森は樹齢の高い、巨大な樹木に囲まれた場所だ。
僕達はその背の高い木たちを生かすことにした。
聖棍を握りジャンプすると、横に伸びた聖棍がガッと両端の木々に挟まれ引っ掛かる。
そのままそれを鉄棒のように使い、身体強化した右手でまるで体操選手のように一回転して勢いを付けると、聖棍を手放してさらに上空へと飛び上がる。
そして、左手に持っていた聖棍と魔力がある限り、聖棍は複製できる。
また上空で聖棍を複製し両手に持つと、今度は左手の聖棍を伸ばして鉄棒にし勢いを付けてさらに上空へ進む。
まるでおおきな雲梯のように聖棍を使い捨てにすることで、周りに木がある限りどこにでも行ける。
「っ!早いッ!?」
いくら聖獣のネクスとはいえ人を二人も乗せて飛べる高さには限りがある。
そのネクスが高度をあげるよりも早く高度を上げるサンドラさん。
ついにサンドラさんの高度が勝ってしまう。
「終わりよ!これが私の全力、巨大岩!」
威力が25パーセント上がるだけでなく、持ち換えている間にずっと聖棍に魔力をためていた魔法が発動すると、超巨大な岩の塊が空中に現れ、ソフィア王女達を自由落下で押し潰す。
「くっ!」
そこにダメ押しで右手を黒曜石の塊に変えて上から超巨大岩をパンチして加速させる。
「いくわよ!チェストォオオオッ!!!」
「きゃあああっ!」
ズガアアァンと地響きを起こして地に押し潰される二人。
いくら防御の高すぎるふたりとはいっても、天災には勝てないだろう。
魔法を発動させる前に叩く。
これが魔法使いへの対処法。
僕が魔王相手に使った攻略法だ。
「ちょ、ちょっと!早くして!」
『――現し世の万物を覆滅せし神よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
僕は決着を確認し、杖を取り出して唱える。
『――ホーリーデリート――』
このままにしておくと無事では済まなくなってしまうので、いち早く岩を粉々にして取り除く。
サンドラさんは僕の言われたとおりに動いただけで、この展開までは予想していなかったのだろう。
「ソフィアっ!」
岩を取り除くとサンドラさんがソフィア王女のもとへ駆け寄る。
「無事で良かった……!心配させないで!」
「ふふ、完敗です……」
二人の抱き合っている姿を見ると、まあ後で怒られても受け入れようかなと思えてくるのだった。




