第290話 茶番
「こ、降格……」
「だが、一つ下がるだけだぞ?」
「本来の謀叛の罰としては破格すぎる……」
ハイエルフの人達が提示した内容を軽いと考えるのには理由がある。
彼らはこの森に住んでおり、とくに治める領地もない名ばかりの公爵や王族。
第64代聖女ロサリンさんから与えられたというだけでその地位を享受し、下の貴族からお金まで貰っている。
そう、単純に彼らは王家と公爵家しか経験がないために知らないんだ。
爵位が一つ下がれば、上にお金を納める側になり、そのお金の捻出のためにあくせく働かなければならなくなる。
確かに実際の王家への謀叛など普通は打ち首でもおかしくないのだから、謀叛をはたらいても最低限の地位が保証されている点ではむしろ参加しない方がデメリットのようにも思える。
「ハイエルフの皆さん、選んでください。サンドラさん側についてサンドラさんに賭け勝つのを見守るか、ハイエルフの皆さんと共に戦い王座を勝ち取るか」
一見なにもせずにただ見守っていれば、デメリットはないように思える。
だがサンドラさん側について負けた場合、今より迫害は更に助長し、同じハイエルフでも『ハーフエルフを信じたハイエルフ』の烙印が押され白い目で見られる可能性がある。
その上サンドラさん側についた人達は、サンドラさんとともに戦うことが出来ないというのがミソなんだよね。
一緒に戦うのではなく、ただサンドラさんが勝つことを見守ることしか出来ない。
つまり、ハイエルフの人達の忌み嫌う「ハーフエルフ」に己の未来を託すということ。
ハイエルフとしてのプライドを持つ彼らに、そんな選択はとれないようだ。
事実、ほとんどのハイエルフはぞろぞろとオラフさん側に移動していた。
もしサンドラさんが勝てば、降格した人達は全員サンドラさんやソフィア王女達にとっての危険分子となるため、その人達は今後も王家から警戒され陞爵することは難しくなる。
そしてソフィア王女は事前の宣言通り女王となることを辞退するため、おそらく次期女王はサンドラさんになる。
するとハーフエルフがハイエルフの上に立つことになる。
それをハイエルフの人達は受け入れられるのかということだ。
僕達のところに残ったのはソフィア王女の親で現王のファルスさんがいるツェン家、そして現王と仲の良い前王家のノイン家だけだった。
「見事に分かれましたね……。では始めてください」
僕はそれだけ言うと、近くにあった大樹の木の根に腰かける。
「ソラ様、お隣よろしいですか?」
「ええ」
ソフィア王女も観戦体勢になる。
「どれほど育て上げたのですか?」
「エルーちゃんと互角か、それ以上の実力でしょうか?ステータスに関して言えばすべてエルーちゃんを超していますが、エルーちゃんは魔法の使い方の天才ですからね。ただ教えたとおりのことが出来れば、サクラさんになら勝てると思います」
「わずか一週間で、そこまで……」
「物理攻撃でいえば彼女と同じ土俵に立てる人は今のところ知らないです」
アレンさんと最近手合わせしていないからわからないけど、親衛隊の皆さんにはまだグミ迷宮の周回はまだ説明していないので、カンストステータスを相手にするのはまだ早そう……。
「その割には随分とサンドラちゃんに不利な戦いにしたようですが、勝算は?」
確かに集団戦は個人戦とは違い難しくなる。
「こんなのは、ただの茶番ですよ……」
「茶番……?」
「全員でいくぞ!雷の雨!」
雷を使えるハイエルフの皆さんが合成魔法で大きくした雷の雨を、サンドラさんは僕の事前指示通りにノーガードで受け止める。
「サンドラちゃんっ!?」
シュウウと音が鳴ると、集まった雷がサンドラさんに届く前に尻すぼみして消えてしまう。
「えっ……?」
「言ったでしょう?最初から勝負が着くように育てたんですから、こんなのは茶番だって」




