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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第36章 一期一会
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閑話76 一年生

【ミア視点】

「それで、新しい会長様は、どうするつもり?」

「ミアは相変わらずだな……」


 涼花は相変わらずクールだ。

 会長にまでなったら、ファンももっと増えそう。


「そりゃあ新一年生のスクープ、広報委員としては逃すわけにはいかないもの!」

「まあ、今更風習を変えるつもりもない。私も例年通りやるだけさ。それに……」

「それに?」

「優秀な生徒は、私としても大歓迎さ」

「よしきた!」




 校門前に来ると、私達はすぐに目的の人物を見つけることが出来た。


「忍ちゃん!神流ちゃん!」

「「ミア様」」


 神流ちゃんが私のところによってくる。


「なんだ、知り合いだったのなら先に言っておいてくれ。しかし、いったいどんな縁で……」

「ああ、シエラちゃん関係でちょっとね……」

「シエラ君関係……なるほど。シエラ君の周りには、あまり()()()()()が集まりやすいのだが、今回もその類いだろうか?」

「へ……?」


 あの聖人君子の涼花がそんなこと言うなんて、どうしちゃったの?


「二人とも、ついてきたまえ」




 無言で聖徒会室まで来る4人。


 き、気まずい……。


「かけたまえ」


 会長用の椅子に座り腕を組む涼花は威圧しているようにすら思える。


「さて、改めて自己紹介をしよう。聖女学園次期聖徒会長の橘涼花だ」

「広報委員長のミアよ」

「お初にお目にかかります、涼花様。嶺神流と申します」

「嶺忍と申します」

「シエラ君の知り合いならもしかすると知っているかもしれないが、毎年成績トップを聖徒会に勧誘するしきたりがあるんだ」


 いつもなら涼花の方から「堅苦しいのはいい」と言っているはずなのに……。

 そんなことを言う余裕すらないのは、何故?


「だが、私は今回初めてそのしきたりを破ろうか悩んでいてね」

「「えっ……!?」」

「神流君、私は成績二位であるキミを勧誘したいと考えている」

「ど、どうして私なのですか……?私は二位とは言っても798点。対して忍は956点を取った上に、今年から導入された特待生制度すらほぼ同様の点数を取り合格し、一年生の授業を免除されている身です。正直、差が開きすぎています」


 それなら、わざわざ忍ちゃんを呼んだ理由は牽制するため……?

 涼花が今敵視しているのは、忍ちゃんなの……?


「涼花、いったいどうしちゃったの?らしくないよ」

「よく知っているミアと神流君に聞くが、忍君は品性に難があるのではないか?」

「そ、それは……」

「どうしてそれを……?」

「私は()()()()()()()()()()()()たちでね」


 アオイ様がここで関係してくるの?

 その言い分に、忍ちゃんは少し顔をしかめていた。

 涼花の嫌がらせに近いその発言は何故か忍ちゃんに有効のようだった。


「母上が聖女院を離れたのは表向きは父上の花屋で一緒に暮らしたいからという乙女のような話になっているが、実際は違う。『護衛のため』という大層な名目でトイレ、風呂、更には秘め事すら逐一覗くという聖影の陰湿な嫌がらせに堪えられずに聖女院を出たんだ」

「えっ……?」

「母上は私に人種族の嶺家、つまりは梓様の血が混じっている嶺家とは関わらない方がいいと何度も繰り返し言っていた。それは彼等が聖女様の命令すら聞かない連中だからだそうだ」


 怒りを露にする涼花。

 聖影って、凄い人達だと聞いてはいたけど、まさかそんな人達だったの?


「アオイ様の件は、とても残念に思っております。ですが私達嶺家は『嶺家の意思』にのみ従う掟になっております」

「権力者の真似事をするつもりなら、私の序列を行使することは厭わないよ?」

「涼花……」


 涼花の言っていることが本当の事なら、私が口を挟めることではない。


「ご安心ください。『嶺家の意思』とはつまり、初代嶺楓様のお孫様であるソラ様の忠実な犬ということです。お二人は聖影をご存じのようですからお話ししますがソラ様は先日、聖影全員に聖女様の監視を全面的に禁止なされました」

「……!既にソラ様が先手を打っておられたのか」

「はい。ですから聖女様をつけ回すようなことを私はいたしませんし、序列1位でもあらせられるソラ様、そして次点としてサクラ様、真桜様の御言葉にのみ従います」

「……信仰を試すような真似をしてすまない。君は賢く考えもしっかりしているようだな」

「涼花様、こいつに騙されてはいけません!」


 治まったと思いきや、そこで神流ちゃんが話を終わらせなかった。


「忍はソラ様のストーカーをしていた張本人です。逆に言えばソラ様ご本人から沙汰が出るまでやめようとすらしなかった、ただの変態です」

「なんだと……?」

「神流、余計なことを……」


 ……なんか一気に低レベルの話しになっていてびっくりしている……。


「……それは事実か?」

「はい。ですが、それは任務故。今の私には心に決めた御方がおりますので」

「……聞いても?」

「はい。ソラ様のお弟子様であらせられる、シエラ・シュライヒ様です。もう聖女様のストーカーはいたしませんが、聖徒会書記として愛する御方のお背中を目線で追うくらいはお許しいただけますか?」


 ……私と神流ちゃん、絶句。

 

 この子、堂々と『これからもソラ様のストーカーは続けます』って言っているようなもんじゃない!

 何が『もう聖女様のストーカーはいたしませんが』なのよ……。


 涼花に真実を伝えたいのに、涼花はソラ様が殿方なことはおろか、シエラちゃんがソラ様であることすら知らないので伝えることが出来ず、私と神流ちゃんは口をパクパクしていた。


「ふむ、確かにそれは個人の問題。私がとやかく言うことではないか。だが、生憎シエラ副会長は前会長に頼まれているのでね」


 ガタリと席を立つと、忍ちゃんの前に立つ。


「彼女は繊細な人だ。目に余るようなら、その芽を摘むだけさ。聖徒会へようこそ。だが、元風紀委員長としてしばらく君のことは様子を見させて貰うよ」

「わ、私も抑止力になりますっ!」


 隣にいた神流ちゃんが高らかに宣言する。


「私もソラ様から忍のことは任されていますからっ!」

「ふっ、では神流君にもお願いするよ。よろしく頼む」


 荒れに荒れた次期聖徒会。

 ソラ様、早く帰ってきて……!

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