第282話 肩身
それから二日間かけて、僕達はレベル上げを終わらせた。
流石に卒業式で代表挨拶があるソフィア会長が学校を休むわけにも行かず。
「いいですか!いくらソラ様とはいえ、サンドラちゃんは絶対に渡しませんからね!」
と捨て台詞を残して学園に向かっていった。
「はぁ、はぁっ……」
サンドラさんが杖を支えにして地面に女の子座りでへたりこむ。
彼女に渡している武器は『聖棍ユグドラシル』。
『キラリンマジカル』など、ろくな武器名の少ないステッキ界隈では珍しくちゃんとした名前のステッキ……。
絶対にエリス様の趣味でしょ……。
前世の僕の"ファン"だった節があるし、魔法少女モノとか好きそう……。
「はい、秘薬です」
「はぁ、はぁ……ソラ様、民衆は『つかれたら少し休む』のが"普通"の考え方よ……。聖女様しか作れないといわれている秘薬で疲れを取るなんて、こんな修行、頭おかしいわ……」
そう言いつつも、疲れから楽になりたいからか、秘薬をあおるサンドラさん。
「皆さんの言う"普通"をやっていれば強くなるのでしたら、私は何も言いませんよ。数千時間この世界のシュミレーションをした私は、強くなるにも楽ができる部分は限られていると考えています。私は覚悟を決めた人へ強くなるためのサポートは全力するつもりですが、メンタル面についてはご自身でなんとかしてもらうしかありませんよ」
「……やめるとは、言ってないわ!でも……」
「……まだ何か?」
「きょ、今日って、確か六日目よね……?」
「はい。それがどうしたんですか?」
確かにずっと外だけど、食事はちゃんと取ってるし、定期的にクリーンで清潔を保っているから問題はないはず。
「ソラ様、今日帰らなくていいの……?」
「……まだ言うんですか?」
「そ、そうじゃないわよ……。私は帰らなくても、ソラ様くらいは帰った方がいいんじゃないかと思って……」
「……?」
要領を得ないことを言われ、僕も痺れを切らしてしまう。
「私が帰ることは、ハーフエルフの迫害の問題より大事なことですか?」
「そ、それは……」
そこに、意外な横やりが入ってきた。
<ソラ君、私も一度帰った方がいいと思うわよ……>
<……エリス様まで邪魔をするんですか?>
まさか、また聞かれているとは思わなかった。
<そ、そうじゃないけど……>
<僕、ハーフエルフの方々がそんなことになっているって知ってすごく残念に思っているんです。結局ここでも、僕みたいな人たちが沢山いるんですね……>
<……申し訳ないけれど、私はあまり干渉しないようにしているの>
神様としての立場だから、それは仕方ないことだ。
既に聖女という肩入れの前例を作ってしまっているけれど、それ以外にはあまり肩入れなどしないようにしているのだろう。
でも、僕は今回は譲れない。
できることなら、できるだけ仲間を増やしておきたい。
<この迫害は、神様が聖女という肩入れをする存在を作ってしまったために起きていると僕は考えています。ハイエルフが魔力視で魔力量を見れるが為に、神の友人である聖女の魔力が高いから、高貴なるものは魔力が高いと勘違いが生まれてしまったのでは?>
<……>
エリス様は嘘は言わない人だ。
つまり、無言が答え合わせになっているということ。
<ソラ君、でもそれは一挙手一投足でなんとかなることではないはずよ。今すぐにやらないといけないことなのかしら?だって、今日はあなたの……>
<今こうして休んでいる間にも、ハーフエルフは肩身の狭い思いをしているというのに、そんなことを言うのですか……?>
<そ、そういうつもりじゃ……!>
<もういいです。サクラさんの一大事とかではない限り呼ばないでください>
僕はサンドラさんに向かってもう一度杖を構える。
「さ、続きをしますよ」




