第281話 翡翠
「ど、どういうことですか?」
「ソフィア王女は、私が何をしていたのか分かりますか?」
「え、ええ。この『患グラス』で光っていた敵を片っ端から倒していました」
「そうです。では、サンドラさんは何をしていましたか?」
「私がこの武器に魔力を灯すと、エメラルドの花を順番に割っていたわ」
僕は相槌を打つ。
「あれは翡翠晶という植物系統の魔物の一種です。翡翠晶は『エメラルドダスト』とよばれるいわゆる花粉のようなアレルギー性の目に見えない粒子を飛ばします。つまり、ここにいる翡翠晶以外の魔物は翡翠晶のエメラルドダストのせいで弱体化の状態異常にかかってしまっていたのです」
「な、なるほど。『患グラス』は病を見つける道具……。だから翡翠晶意外のすべての魔物が見えていたのですね」
「確かに、この迷宮に入ってから少し力が吸い取られているような感覚があったわ。翡翠晶の仕業だったのね……。美しい花には棘があるというけれど、この綺麗な花もそうだったのね……」
「あら?サンドラちゃんは美しいけれど、棘なんてひとつもありませんわ」
「ソ、ソフィア……」
僕の隣で、勝手に爆発しないでくれる……?
まあ僕とかの前では少しツンデレ気味なサンドラさんが骨抜きにされているところを見ると、少しお似合いだなとは思うけどさ。
「しかし、私やフェンリル様、ソラ様は大丈夫そうですが……」
「ああ、エメラルドダストの弱体化はレベル50以上には通用しませんから。リルは上限レベルである70ですし、ソフィア王女も既に越えているでしょう?」
「はい!これもソラ様との愛の結晶でございます」
「ちょ、ちょっと!ソフィアは渡さないわよっ!」
「ソフィア王女は、私達の修行の邪魔をしに来たんですか……?」
勝手に話をこじらせないでよ……。
「だって、サンドラちゃんが可憐なソラ様と二人きりだなんて……。何かが起こってからでは遅いのですよ!」
何も起きないよ……。
「じゃあどうして愛の結晶だなんて言ったんですか……」
「それはもちろん、嫉妬するサンドラちゃんが見たかったからですよ」
「……」
もう、無視しよう……。
「翡翠晶は物理防御も魔法防御の高い、普通ではなかなか倒しづらい魔物ですが、体力はほとんどないので『貫通の指輪』さえあれば弱体化されているサンドラさんでも倒せます。そして本題ですが、この翡翠晶はレベル上げに必要な経験値がとても多いんです」
「あのレベルの上がりようは、そういうことですか……。翡翠晶以外の魔物を先に倒したのは、サンドラちゃんに翡翠晶だけを倒させるためだったのですね」
「周りの魔物も一緒に倒せないの?」
サンドラさんの疑問も、もっともだ。
「『追撃棍』は一定速度でしか追尾してくれないんですよ。だから確実に翡翠晶のみを倒すために、翡翠晶意外の魔物を倒しておくんです」
「経験値の高い翡翠晶を私が倒すため……。協力して楽にしてまで、私に何をさせたいの……?」
「みんなで早くステータスアップ作業を終わらせるんですよ。二周目は私とソフィア王女で翡翠晶意外の魔物を倒し、サンドラさんは片手で『追撃棍』を握り、もう片方の手でグミを食べてください。これが私なりに考え抜いた『ステータスを早く上げる方法』です」




