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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第35章 義理人情
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第272話 覚悟

「ほら、いいから早く……」

「待ってくださいよ!まだ心の準備が……」

「待つものか!からかった罰だ」


 何故か朱雀寮にソフィア会長を連れてきたエレノアさん。


「卒業間近のお二人が、何子供みたいなことをしているんですか……」


 この二人、前も一緒にいたし仲良いよね……。


 同じクラスだし二人とも頭良いし今では二人とも第一王女だし、接点は多い。


 エルーちゃんに促されて共有スペースのソファに腰かける。


「ソラ君、お願いだ。悩める弟子の願いを叶えてやってくれないか?」

「ソフィア会長、何かあったんですか?」

「それを話すには、先日の私の元婚約者の失言について話さなければなりません」


 『――お前なんか、生まれなければよかった――』


「っ!?」

「ソラ様、大丈夫……?」

「お義母様……!」

「だ、大丈夫……。ちょっと思い出しただけだから……」

「ご負担になるようですので詳細は省きますが、あれからアークは牢に入れ、そして五国会議ではサクラ様によってその原因となったハイエルフの差別を指摘されました。その結果全ハイエルフからハーフエルフへの謝罪があるまで、国の予算がほぼ半分となることが決定しました」

「えっ……」


 予算が半分……!?

 それって、国民は大変なことになるんじゃ……?


「国民にどう説明するんですか?」

「ご安心を。災いを招いたのは公家の責任ですから、公家に当てていた補助金が消えるだけです」

「となれば『ハイエルフ達にどう説明するか?』という話になるんだが、ハインリヒ王は時期女王であるソフィアにこの件を一任したらしいんだ」

「私はどうやってもハイエルフが頭を垂れることはないと分かっています。それは種族的にエルフ種はハーフエルフを最底辺に見下すように代々教育されているからです」


 生まれてからずっとそういった家族、いや種族に囲まれてきたのだ。

 それをいきなり変えろというのは無理があるのは仕方ないことだ。


「……では、どうするつもりですか?」

「自分達の教育のせいでハイエルフは自滅をしたわけです。ですから、その責任として私は王家の解体とハイエルフ達の爵位の褫奪(ちだつ)を掲げました」


「え、ええっ!?それじゃあ、ソフィア王女も……」

「ええ。ハイエルフは残らず王家や爵位持ちではなくなります。ハイエルフは他の貴族に(まつりごと)を押し付け、のうのうと暮らしているのがほとんど。彼らなど、一度地に落ちてしまえば良いのです。そうすれば、誇りも何もかもが幻想であったことに次第に気付くことでしょう」


「次の王は誰になるんですか?」

「ジーナ様の子、ハーフエルフのサンドラちゃんです。彼女を擁立することで、ハイエルフは頭を下げざるを得なくなりますから」

「……それでは、一時的な凌ぎにしかならないのでは?」

「ええ。ですから、王家でなくなった私がすべてのハイエルフを相手取って共に土に還るつもりです」

「そんなところまで考えていたのか……」

「な、なんてこと考えているんですかっ!?」

「ハイエルフは自分達が聖女様を除いて最も魔力が高いと信じてやまない種族。聖女様以外を下に見ている彼らが抑圧されれば、必ず実力行使に走って戦争を仕掛けてきます。ですがそんなことになるまえに、ハイエルフの私が彼らを止めるしかありませ……」


 言い切る前に、僕はソフィア王女の頬をひっぱたいた。


「っ……」

「サクラさんが、そんな結末望んでいるわけないじゃないですか……。サクラさんを人殺しにする気なんですか?」

「それは……」

「……私の弟子が気軽に死ぬだなんて、そんな覚悟……絶対に赦しません……!」

「ソラ様……」

「私を頼ればいいじゃないですか……」

「ですが……」

「弟子である前に、私と貴女は友人だって言っているんです!!……そんな悲しいこと、言わないでください……」


 僕はぽろぽろと溢れる感情を抑えられずにいた。


「……ほら、ボクの言った通りじゃないか」

「……申し訳ありません、ソラ様……」


 ソフィア王女も少し目尻に涙を溜めると、やがて深々と頭を垂れた。


「ソラ様、何卒お力添え願えませんでしょうか」

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