閑話74 道半ば
【エレノア・フィストリア視点】
「……」
ボクは初めて張り出された成績を見ていた。
「あら?あなたがここで立ち止まるなんて、珍しいこともあるものですね」
「ソフィアか」
「満点を取れなかったことを悔いているのですか?」
1位 エレノア・フィストリア 992点
2位 ソフィア・ツェン・ハインリヒ 855点
3位 エディス・ベレスフォード 796点
「まあ、そうともいうけど、そういうことじゃないんだ。見てみなよ、一年生を」
そこには相も変わらず1000点を叩き出す「シエラ・シュライヒ」の文字。
「相変わらずですね、シエラさんは」
「この8点が近いようで、とても遠いんだ……」
「ふふ、今更張り合おうだなんて、遅すぎるんじゃないですか?」
「張り合っている訳じゃない。追い付きたいだけなんだよ。これは、親友としての矜持みたいなものさ」
「全く、こんなことなら私も朱雀寮で生活するんでしたわ……」
「ふっ、未来を担うハインリヒの王女が、学園寮から登校するというのかい?」
言いつつも、ボクはそれが自虐でしかないことを知っていた。
「それ、貴女だけには言われたくありませんよ……」
「……何かあったのか?」
「……相変わらず、勘も頭も鋭くて困りますね」
ボク達は掲示板を離れ歩き出す。
「そんなことないさ。大分口調がなげやりだったからそう思っただけさ」
「……」
少し黙るソフィアだったが、やがて切り出した。
「もうすぐ、ハインリヒの王が変わるかもしれません」
「案外早かったね、ソフィア女王様」
「私ではありませんよ」
「な、なんだって……!?いったい誰が……」
ソフィアはツェン家の一人娘だったはず。
「ディアナ様のお子さん、といえばわかるかしら?」
「サンドラ様だってぇっ!?」
よりにもよって争いの火種そのものを入れるなんて、一体何を考えてるんだっ!?
「今は一人でも多く仲間が欲しい。貴女も新しい王の味方になってくださる?」
「そんな大事にボクを巻き込まないでくれよ……。第一、ボクの肩書きなんて使っても役に立たないだろうに」
「そうでもありませんよ。昔と違って貴女には王位継承第一位の王女様という肩書きがあるのですから」
「やめてくれ。ボクは妹に全部丸投げして聖女院に入り浸るつもりなんだから、ボクと政治の紐付けなんてしないでくれたまえ」
「それはさすがにアイヴィ王女が可哀想ですよ」
「アイヴィも承知の上さ。というか、そうじゃないだろう?」
「……?」
ソフィアの尖った耳が少しだけ動く。
「相談するなら、ボクなんかよりもっと相応しい相手がいるだろう?」
「……」
名前は出さなくても、お互いに思い浮かんでいるのは彼のことだろう。
「でも、相手は彼女を殺しかけた一族ですよ?」
「だが、ハイエルフは聖女には逆らわないだろう?」
「それは……」
「聞くだけはタダなんだから、聞いてみればいいさ。キミは弟子なんだろう?ならそういうのは、弟子の特権じゃないか」
「……なんだか早口じゃありません?」
「羨ましい限りだって言ってるのさっ!」
「あらあら……?うふふ、そうなんですね!」
ソフィアはボクの前に出て少し屈むと、にこやかにステップを踏んでからボクの方を向いてきた。
「天才の大弱点、見つけたり♪」
そう言って自らの唇に人差し指を当てるソフィアは、おちゃらけているようで、既に覚悟を決めているかのようだった。




