第265話 自我
「よかった……収まりましたね」
「な、ななななっ!?」
ぽぽぽぽぽっと顔が熱くなっていくのがよくわかる。
「ふふ、初めて、捧げてしまいました……」
「私も……って、そうじゃなくてっ!」
「うふふ、それは光栄ですね」
「そ、そんな……リリエラさんには、ルークさんが……」
「あら、でも女の子同士なら、ノーカンですわ」
「っ……!」
女の子同士じゃないから全くノーカンじゃないんだけどっ……!
「ああ、ソラ様は女性愛者なのでしたね……。それは申し訳ありません。ですが安心してください。もちろんソラ様は敬愛しておりますが、恋愛感情としての愛情ではございません。エリス様のお相手を盗ろうなどとは思っておりませんから」
「っ……リリエラさんはっ!もっとご自分を大事にしてくださいっ!!」
僕の性別の秘密は、墓場まで持っていかないといけなくなってしまった……。
「全く、余計な手間を増やしてくれるな……」
すぐさま転移してきたシルヴィアさんに光の拘束で拘束されるマナ夫人は、気を失っていた。
「ごめんなさい……」
「い、いえ……決して奥方様のせいではございませんから」
「そうではなく……ヒール」
僕はマナ夫人の骨折をもとに戻した。
「私、母や姉にはめっきり弱かったんです。二人はいつも手が先に出て、それから口が出る人でした。向こうではこんなに強くなかった私は、それが普通なのだと、家族ってそういうものなんだと思って、段々と諦めるようになりました」
「お義母様……」
シェリーが僕の手を握ってくれた。
「でもここに来て、それが普通ではないことに気付きました。殴って罵倒するだけが家族のコミュニケーションではないのだと……。そう思いはじめてから私はセフィー達がが同じ境遇の親を持っていたことを知りました」
「お義母様……」
「私はシェリーやセフィー、そしてシルク君に私と同じ道を辿って欲しくありませんでした。その結果、私はあんなことを……」
あんなに悲しいことを他の人に体験して欲しくなんかない。
「リリエラさん、私を止めてくれて、本当にありがとうございます」
「いえ、これはただの私のエゴですから」
「それでも、ありがとうございます」
少し照れているリリエラさんが新鮮だった。
そして僕はシルク君に向き直る。
「シルク君、もしよければだけど、私と一緒に来ない?」
「ソラ様と、ですか?」
「はい。私と同じ境遇の人たちには、幸せになって欲しいの。でも、私には全ての同じ境遇の人達を救うことは多分できないと思う。だから、これは私のエゴ……」
僕はその勤勉で頑張りやさんな手をそっと手に取る。
「シルク君、私の自己満足に付き合ってくれない?」




