閑話69 四天王
【シルヴィア視点】
「森羅滅却!」
「オオオォォォ……」
サラサラサラと灰が風に吹かれて飛んでいく。
もうリッチを倒した数は数えていない。
慣れてきたものだ。
リッチは魔王四天王の一角であり、そしてあの"忌々しき神"の手下でもある。
本来ならば「神」の作った体である者同士、実力は変わらないはず。
だが、主は現存する聖女様方にも加護を与えている影響で、私に費やせる力が弱く地力では勝てない。
以前は降神憑依で主と共闘しないと倒せないほど苦戦していた。
それが今や私一人で倒せるくらいまでになった。
それもこれも、旦那様が提唱した、この世界の「練度」という概念のおかげだ。
クラフトのギフターしかり、主の作られたこの世界は、主でさえ知り得ないことがまだまだ沢山ある。
主が聖女様に用意している「ゲーム」は、その世界の現在の有り様をそのままコピーした疑似空間を作っているだけに過ぎず、理論ができていないのに移植できているのも神力のおかげだ。
その「ゲーム」を三年間もお遊びになられた旦那様は、この世界におけるいくつかの「分からない」を「分かる」へと変えた。
「旦那様には、感謝せねばなるまい」
旦那様……。
あのハイエルフのせいで一時はどうなることかと思ったが、今は元気になられて本当によかった。
あの笑顔を見るだけで、私は胸がきゅっと締め付けられるようになってしまった。
きっともう、手遅れだろう。
最初のうちは、「きっとこれは主のお気持ちが流れ込んでいるだけだ」と思い込もうとしたが、もうあきらめた。
これはたとえ主のせいで植え付けられたものだったとしても、私自身が旦那様を求めてしまっているのだ。
恋の病とはよく言ったものだ。
<シルヴィッ!>
<っ!あ、主っ!?>
主を話題に出していたため、まさか思考を読まれていたのかっ!?
<急いで戻って!>
<承知>
……違ったようだ。
天庭にワープすると、主がすぐ別の場所に私を転移なさった。
「わっ!?だ、大天使様ぁっ!?」
ここは……洞窟だろうか?
目の前にいたのは、小人族の女。
確か旦那様の弟子の……ステラだったか。
「お、奥方様っ!?」
私はステラの後ろに倒れているエルーシアと、そして旦那様の存在に気付く。
私がリッチ討伐で離れている間に、何があったというのだ……!?
<ただの魔力切れよ……>
主が少し補足をしてくれたおかげで、私はすぐに立ち直ることができた。
「ここで、何があった!?」
「ええっとぉ……魔王四天王インキュバスがここに現れたんですっ!」
「イ、インキュバスだとっ!?」
女を餌にして操り魔力を食らう魔族……!
「いまどこにいる!?」
「し、師匠が倒しましたっ!」
「そ、そうか……。それで、どうして奥方様は倒れている!?」
「ひ、ひいっ!?」
これが旦那様を惑わせる小人族……。
こんなに弱々しそうなものがお好みなのか。
私とは正反対のような見た目……。
……いや、今は私情を挟む時ではない。
「別に怒っているわけじゃない。状況を確認しているだけだ」
「……ええとっ、インキュバスは暗黒催淫という魔法を梛の国全土にばらまいたと言っていましたぁ……」
「な、何だとっ!?」
一体、それほどの魔力を溜めるのに、どれだけの時間この地下で身を潜めていたというのだ……!
「ですが、師匠が全土を覆う浄化魔法で全て取り除いてくれましたっ!」
「な、なんと……!」
私はいつも向かうのが遅い……。
サクラ様をあんなにしてしまったのも、私のせいだ。
神が作ってくれた体だというのに、いつも力が足りない自分に嫌気がさす。
「奥方様とエルーシアは連れて帰る。貴様もついていくか?」
「は、はいぃ……!」
「なら肩に乗れ」
抱き上げて肩に乗せる。
私はエルーシアと旦那様を連れて飛び立った。




