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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第32章 百花繚乱
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閑話69 四天王

【シルヴィア視点】

「森羅滅却!」

「オオオォォォ……」


 サラサラサラと灰が風に吹かれて飛んでいく。


 もうリッチを倒した数は数えていない。

 慣れてきたものだ。


 リッチは魔王四天王の一角であり、そしてあの"忌々しき神"の手下でもある。


 本来ならば「神」の作った体である者同士、実力は変わらないはず。

 だが、主は現存する聖女様方にも加護を与えている影響で、私に費やせる力が弱く地力では勝てない。


 以前は降神憑依で主と共闘しないと倒せないほど苦戦していた。

 それが今や私一人で倒せるくらいまでになった。


 それもこれも、旦那様が提唱した、この世界の「練度」という概念のおかげだ。

 クラフトのギフターしかり、主の作られたこの世界は、主でさえ知り得ないことがまだまだ沢山ある。

 主が聖女様に用意している「ゲーム」は、その世界の現在の有り様をそのままコピーした疑似空間を作っているだけに過ぎず、理論ができていないのに移植できているのも神力のおかげだ。


 その「ゲーム」を三年間もお遊びになられた旦那様は、この世界におけるいくつかの「分からない」を「分かる」へと変えた。


「旦那様には、感謝せねばなるまい」


 旦那様……。


 あのハイエルフのせいで一時はどうなることかと思ったが、今は元気になられて本当によかった。


 あの笑顔を見るだけで、私は胸がきゅっと締め付けられるようになってしまった。


 きっともう、手遅れだろう。

 最初のうちは、「きっとこれは主のお気持ちが流れ込んでいるだけだ」と思い込もうとしたが、もうあきらめた。

 これはたとえ主のせいで植え付けられたものだったとしても、私自身が旦那様を求めてしまっているのだ。

 恋の病とはよく言ったものだ。


<シルヴィッ!>

<っ!あ、主っ!?>


 主を話題に出していたため、まさか思考を読まれていたのかっ!?


<急いで戻って!>

<承知>


 ……違ったようだ。




 天庭にワープすると、主がすぐ別の場所に私を転移なさった。


「わっ!?だ、大天使様ぁっ!?」


 ここは……洞窟だろうか?

 目の前にいたのは、小人族の女。

 確か旦那様の弟子の……ステラだったか。


「お、奥方様っ!?」


 私はステラの後ろに倒れているエルーシアと、そして旦那様の存在に気付く。


 私がリッチ討伐で離れている間に、何があったというのだ……!?


<ただの魔力切れよ……>


 主が少し補足をしてくれたおかげで、私はすぐに立ち直ることができた。


「ここで、何があった!?」

「ええっとぉ……魔王四天王インキュバスがここに現れたんですっ!」

「イ、インキュバスだとっ!?」


 女を餌にして操り魔力を食らう魔族……!


「いまどこにいる!?」

「し、師匠が倒しましたっ!」

「そ、そうか……。それで、どうして奥方様は倒れている!?」

「ひ、ひいっ!?」


 これが旦那様を惑わせる小人族……。

 こんなに弱々しそうなものがお好みなのか。


 私とは正反対のような見た目……。

 ……いや、今は私情を挟む時ではない。


「別に怒っているわけじゃない。状況を確認しているだけだ」

「……ええとっ、インキュバスは暗黒催淫(ダーク・ヒプノシス)という魔法を梛の国全土にばらまいたと言っていましたぁ……」

「な、何だとっ!?」


 一体、それほどの魔力を溜めるのに、どれだけの時間この地下で身を潜めていたというのだ……!


「ですが、師匠が全土を覆う浄化魔法で全て取り除いてくれましたっ!」

「な、なんと……!」


 私はいつも向かうのが遅い……。

 サクラ様をあんなにしてしまったのも、私のせいだ。

 神が作ってくれた体だというのに、いつも力が足りない自分に嫌気がさす。


「奥方様とエルーシアは連れて帰る。貴様もついていくか?」

「は、はいぃ……!」

「なら肩に乗れ」


 抱き上げて肩に乗せる。

 

 私はエルーシアと旦那様を連れて飛び立った。

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