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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第32章 百花繚乱
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第253話 不法

「それで、どうやって入りますか?」

「うーん……。上から、かな……」

「上からぁ……?」

「上に入り口なんてなさそうですが……」


 ドーム型になっているのだから、上に入り口はない。

 それは僕も分かっている。


「ないなら作ればいいんですよ」

「一見もっともなことのように仰っておりますが、しておられることはただの不法侵入ですからね……?」

「国の領内に勝手に別の国を作られているんだから、法も秩序もないようなもんだよ」


 そもそも魔族に法を説くこと自体、暖簾に腕押しだろう。


「二人とも、口を閉じててね」


 僕はステラちゃんを肩車し、エルーちゃんの腰に手を回す。


「ちょっとごめんね」

「きゃっ!」


 身体強化で脚力を強化して地を強く蹴る。

 ぴょいと高く飛ぶと、僕は空中で足場にするようにリフレクトバリアを張る。

 またそれを足場にしてリフレクトバリアを強く下に蹴る。


 リフレクトバリアはタイミングよく作れば二倍に返してくれる。

 これで、僕が蹴った力の二倍の勢いで上に飛び上がることができる。


 元の世界の力学を無視しているような感覚はあるけど、代わりに魔力がエネルギーを作っていると考えれば、説明はつくと思う。


 あっという間にドーム型の一番上まで移動すると、僕はちょうど中央くらいの位置から「患グラス」をかけて下を見る。


「何をしているんですか?」

「ああ、ふたりともかけてみなよ」


 エルーちゃんには僕の余りを貸し、ステラちゃんは以前僕があげたものをつける。


「っ!?これは……」

「『患グラス』は患者の容体がわかるだけではなく、患者の居場所がわかるんだ。それは、壁の向こう側に居てもわかるようになっている」

「なるほど、インキュバスに操られた人間はみんな『催淫』にかかっているため、『患グラス』でどこからでも見ることができるのですね」


 そして、下を見ると、明らかに人が集結している場所がある。


「多分あそこだろうね……」

「人を侍らせているのでしょうか……?悪趣味ですね……」

「まあ魔族に趣味の善し悪しを説いてもしょうがないよ」

「また穴を空けるのですね……」


 弟子が傾向をつかんでくれて、僕もうれしいよ。


「ここにいる魔物以外の人たちはみんな操られていて、その人たちの居場所だけが僕たちにはわかる。だからそれさえ外して魔法を打てばいいってことになる。まさに怪我の功名だね」

「確かに……。『患グラス』は、こういう使い方もできるのですね」


 まあこんなことになるのは、大分特殊だけどね……。


「さて、いくよ。ディバインレーザー」


 下向きに放った光のビームがすべての施設の壁を焼き切る。

 人はいないことがわかっているから遠慮する必要も全くない。


 そのまま下に落ちて着地する。


『ん……?』


 やっぱりここだったか……。


「何者だ!?」

「エリアハイヒールっ!!」


 ステラちゃんが着地と同時に光魔法を使うと、そこにいた近くの女性たちは緊張の糸が切れたようにバタバタと倒れていく。


『アナタ、先ほどの追跡者ですね……?アナタ達があの噂の忌々しい聖女の弟子……』


 ステラちゃんが光魔法を使ったことで、さっき追跡したのをステラちゃんの仕業だと勘違いたみたいだ。

 女性たちが倒れたことで、盾となる人たちがいなくなりよく見えるようになった。


 筋肉がつきすぎず、つかなすぎずの胸板にすらっとしたスリムな体系で、男性でもうらやましいと思うほどの釣り目をした赤髪の美形。

 

 先っぽが槍の形をした尻尾をもち、黒を基調とした肌を見せるような衣装を身にまとう。

 催淫がかけられると、その甘いマスクが夢に現れ出てくるといわれている。


 これが、魔王四天王インキュバス。


『アナタ達には悪いですが、魔王様の恨み……晴らさせて……』

「ディバインレーザーっ!!!!」


 あ、頭消し飛んだ……。


 頭を失った体はどさりと音を立てて倒れる。


「たっ、倒しちゃいましたっ……!」

「……」


 ス、ステラちゃん……恐ろしい娘!




「でも、まだだよ」

「えっ……?」


 どこからともなく再生する頭。


「インキュバスは心臓となる魔石を壊さない限り死なないんだ。頭が吹き飛んだくらいでは、こいつは死なないよ」

「そ、そんなっ……!?」

「そしてこのインキュバスは何年にもわたって人から吸収した魔力を蓄えている。再生するスピードも、尋常じゃないみたいだね」

『クフフフフフ……ワタクシをよく知っている者がいるようですね。そう、アナタ達程度では、ワタクシは絶対に殺せない!絶望に震えなさい。そして、ワタクシの糧となりなさい!』


 暗黒のオーラがこの広い空間を覆いつくす。

 ま、まずいっ!?これは『暗黒(ダークネス)催淫(・ヒプノシス)』!?


「ヴッ……ヴヴヴッ!?」

「ステラちゃん!気をしっかり!」


 僕は近くにいたステラちゃんに触れ、光の強化魔法で催淫状態を解除する。


「た、助かりましたっ……師匠!でも、光の魔力がある人には通用しないはずじゃ……」

「この『暗黒催淫』は強い魔法で、高い魔防を持っていないと無効化できないんだ……」

「しゅ、修業が足りなかったということですかっ……」

「っ……!?まずいことになった……」

「えっ……?」


「……暗黒濁流(ダーク・ウォーターズ)

聖なる壁(ホーリーウォール)!」


 闇と()の魔法が発される。

 黒色の濁流を僕はその主に魔法を返すわけにはいかず、防ぐ手段をとった。


「そ、そんなっ……エルーシアさんっ!?」


 僕の目線の先にいたのは、黒い靄が全身を覆いつくし、頬を赤らめながら両杖を構えるエルーちゃんの姿だった。


「シエラ様……お命頂戴いたします」

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