第250話 団長
僕はステラちゃんを抱えて走り、後ろからエルーちゃんが氷の床を張りスケートのように滑って続く。
ティスには一旦戻ってもらっている。
「でぃばいんれぇぇざああぁぁっ!」
何故詠唱がうまくいっているのか分からないくらいに崩れているけど、きちんと発動してるから凄いものだ。
「ステラちゃんも成長しましたね」
「そうでしょう、そうでしょうっ!」
「……身長以外は」
「一言余計ですっ!!」
「そのままのステラちゃんが、一番素敵だよ……」
ステラちゃんの身長が伸びたら僕が悲しい。
「……余計な一言がなければ、褒め言葉として素直に受け取ったんですけどねぇ……」
僕としては最高の褒め言葉のつもりなんだけど……。
「ストップ」
少し開けた空間まで来ると、僕は先客の存在に気付く。
「あふんっ!!きゅ、急に止まらないでくださいよぉっ!」
「団長のお出ましだ……」
「団、長……?」
ピエロといえば、サーカスのクラウン。
サーカスといえば、団長がいるものだ。
「団長猿。ピエロザルのボス猿にあたる魔物だよ」
これでほぼ確定した。
ゲームで団長猿が付き従っていたのは、魔王四天王のうちの人型にだけだったから。
「私達はもう経験値いらないけど、ステラちゃんひとりでいけそう?」
二人ともレベルカンストだから、経験値が勿体ないんだよね……。
「まっかせてくださいっ!」
ステラちゃんの任せては正直ちょっと不安だ……。
「では、辺りのピエロザルは私が……」
「いえ、全員巻き込みますから、大丈夫ですよぉ!」
「え……?」
「とっておき、用意してきたんですっ!」
「何を……」
「グギーッ!!」
団長猿は器用に大きな鉄球に乗り、こちらの都合などお構い無しに足で器用に鉄球を転がしてやってきた。
ステラちゃんは杖をもう一本取り出すと、杖を交差させて唱えた。
「太陽爆発っ!」
「っ!?」
ご、合成魔法っ!?
しかも、光属性と火属性の上級魔法じゃないか!
ど、どういうこと……!?
キイイイイイイイィィィ――
僕の疑問を書き消すように、紅い光の球がどんどん膨れ上がり、団長猿の目の前で弾け飛んだ。
ドゴォォォオオオオオオッ!!!!
まずいっ!?
「リフレクトバリアッ!」
キュイイイィィ――
間一髪で飛んできた二度目の爆発を反対側に弾き返す。
その威力は凄まじく、辺りを煙にした後、リフレクトバリアで弾き返した方向の魔物が軒並み倒れていた。
「あ、危なかった……」
「な、何ですかぁ……今のぉ?」
「団長猿の足下にあった球、あったでしょう?」
「ま、まさか……!?」
「あれが団長猿の武器でもあり自爆玉でもある、『自爆鉄球』。爆発だけでなく、破片すら危ない、とても危険な自爆玉だよ」
爆弾の大きさも特大で、破裂したときの被害も特大だ。
あんなのかすっただけでもヤバい。
僕は心を鬼にしてステラちゃんを諭すことにした。
「ステラちゃん、成長を見せたかったのはわかるけど、初見の相手だったのならもうちょっと慎重になるべきだよ。うまくいかなかったら、三人とも危なかったよ……?」
「ご、ごめんなさいぃ……」
「……後出しで言うのはどう考えてもシエラ様の影響だと思いますが……」
「わ、私がステラちゃんを……悪い子に育ててしまっていたなんて……」
「だから、私の方が年上ですってばっ!!」




