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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話68 取壊し

【ソフィア・ツェン・ハインリヒ視点】

「ど、どういうことだ!?我が国の予算が半額になっただと!?」


 「ハイエルフ会議」なんて大層な名前ですが、この会議の名前自体も今となっては馬鹿馬鹿しい。

 こんなしょうもない名前になったのも、聖国でハイエルフは王家または公爵家にしかいないことになっているからです。

 もちろんノエル公爵令嬢のいるライマン公爵家やマグワイア旧公爵家のようなハイエルフ種以外の公爵家もいますが、それは「努力して得た地位」です。

 ハイエルフは最初から公爵家以上が決まっているなんて、それだけでもほかの種族を見下しているというのに。


 そのうえ、ハイエルフが至高であるという考えを持つ者達を「貴族派」と呼んでいるのにも虫唾が走ります。

 王家はともかく、貴族の大半はハイエルフではないというのに、さもハイエルフの価値観を貴族全体の価値観だとでも考えているのでしょう。

 聖女様は争いを好まない方が多いですから、それに驕って驕って驕り狂ったのが今の腐敗した王政。


 私はこれらすべてを、これから悉く滅していかねばなりません。


「ソフィア!お前がいながら、どうしてこんなことになったのだ!」

「次期王女が決まって、最近調子に乗っていたのだろう。到底許されることではない」

「そもそも、女が王などと、務まるわけがないのだ……。フィストリアでも失敗して聖女様にご迷惑をかけているというではないか!」


 いつもいつも、勝手ばかり……!


「そうだな。ソフィアを次期王女としたのはサクラ様の信頼を得て国益をもたらしたことが理由。それが剝奪されたとなれば……」

「お黙りなさい!!」

「「!?」」


 私は「焔の覇気」を身にまとい、人生で初めて怒りに狂いました。

 この人たちに反論したのも、こんなに怒ったのも初めてです。


 眉間にしわを寄せ、まるで20歳くらい老けた気分。


<ソフィア、少し落ち着きなさい……>

<フェネクス様……。ありがとうございます>


 今、私の味方はフェネクス様だけです。


「聖国王室……とくにハイエルフ種は今、サクラ様によってソラ様への謀反……つまり()()()()をかけられています」

「なんだと!?」


 私は後ろに控えていた元婚約者のアークの手首に巻かれた手錠を引っ張り前に出します。


「ア、アーク!?」


 アークの父、イベルタがアークの前に出る。


「この騒動を招いたのが、すべて貴族派から排出されたこのアークの仕業です。ソラ様にあろうことか禁句を言ってしまったのです。私の積み重ねてきたものをすべて壊したのはあなたたちです!!そちらこそ、どう責任を取ってくれるというのですか!!」

「……なんのことだ」


 これは事実上の、聖女院からの宣戦布告。

 ソラ様は絶対にそうは思っておられないのでしょうが、サクラ様は違います。


「アーク!一体何があったんだ!?お前は悪くないだろう!黙っていては何もわからないぞ!」

「……」

「アークはサクラ様の魔法『閉口(クロージャ―)』によって言葉を発することを禁じられています。そんなことをしても無駄です」

「な、なんだとっ……!?」


 大方ごねるための理由づくりに証言を得ようとしていたのでしょうが、そんなことを許すはずがありません。


「こうして帰ってきたときにアークが何を口走り、また聖女様に謀反を企てるかわからないという嫌疑までかけられているのです。あなた達、もう少し自覚したほうがいいと思いますよ。もう一度ハッキリと言います。今殺人未遂の嫌疑をかけられているのはアークではなく、私たちハイエルフ全員だということです」


 がやがやと騒がしくなりますが、やがて代表のイベルタが前に出ると、当たりが鎮まりました。


「では、王家として、どう取り繕うのだ?」


 この期に及んで、取り繕う……?


 何を言っているのでしょうか、()()は。


<ソフィア……>


 私はすぅーっと深呼吸をし、怒りは内側に入れておきました。


「国家予算が半分になったのは、国民のせいではありません。前聖国王がジーナ様ご家族に謝罪したというのに、まだハイエルフが余計なプライドを持ち続けているせいで起きたのです……。ですから、その責任を国民が負担するというのは道理に合っていません」


 そもそも聖女を崇拝して「ハイエルフは聖女様の娼館である」と言っておきながら、聖女様とハイエルフの間に生まれた子供を排しているなんて、筋が通っていないのです。


「では、どうするというのだ……?」

「ですから、そういうプライドを持たない種族が王家になればいいのではないでしょうか」

「……は?」

「簡単な話ですよ。ハイエルフが自らの首を絞めたのですから、ハイエルフは責任を負って王家と貴族をやめればいいんです。ほら、そうすれば国益の半分を持って行っていた我々の事業支援費が必要なくなるのですから、国民の皆さんは納得されると思いますよ?」


 私はわざとらしくウインクをしてみせます。

 口をぽかんとしていたほかのハイエルフをよそに、老人の貴族派が口をはさんできました。


「何を言っておる……?聖女様が魔力が多いのも我々ハイエルフが魔力が多いのも、神様に愛されているからだ。その高貴なる存在が王家や貴族の地位につかないというのか……?馬鹿げている」

「私……その理屈、大嫌いなんですよ。その理屈でいくならSランクの魔物や魔王は高貴な存在で、王家や貴族にすべきだとお考えなのですか?」

「……魔物は別だろう」

「別ではありませんよ。それに人間種でもあなた達より魔力の多い人、私は知っていますから。『水の賢者』と言われている人種族のエルーシアさんや小人族のステラさん。彼女達は初めは私たちよりも魔力がありませんでしたが、今ではこの世界の中でもトップクラスの魔力量を誇っています」


 姉弟子であるエルーシアさん達の存在が、私の勘違いを気づかせてくれました。


「ソラ様はハイエルフよりも魔力を持つ方法を知っておいででした。つまり、魔力が多いから神様に愛されているだとか、尊いだなんていうのはただの迷信なんですよ。ソラ様はそれを証明してくださったのです」


 その間違いに気付かせてくださったソラ様をあんな目にあわせたアークを、私は到底許すことはできません。


「……要するに、正式にハイエルフに謝罪を求めていると?」

「謝罪で済むのなら、前ルルベル王がした謝罪で済んでいたはずです。これはそれでも済まなかったから起きているんですよ。誤って済む段階はすでに過ぎているんです」

「我々ハイエルフは第64代のロサリン様に見初められ、王家になることを認めてくださったのだ……。それをないがしろにするつもりか!?」


 どうしてこんなにも頭が悪いのか、頭が痛くなってきます。

 他の貴族と違って必ず王家か公爵家になれるのですから、ハイエルフには貴族としての努力が必要がないという腐りきった環境が生まれてしまったのです。


「『ロサリン様に選ばれた』という名誉に溺れて何も努力してこなかったのが、この結果ということです。いい加減目を覚ましなさい!我々ハイエルフ族は一族すべてが大聖女様謀反の罪に問われています!選びなさい!今ここで全員謀反の罪で無期懲役になるか、全員貴族をやめて平民となり、一から国を学びなおすか!」

 

 もう怒りを通り越してあきれ返っていました。

 ここまでしょうもない人たちだとは思いませんでした。


「血迷ったかソフィア!ハイエルフ全員ということは、お前も王家ではなくなるということだぞ!」

「ええ、その通りですよ。私にだって責任がございますから」


 私だけその責を逃げるというわけではない。


「このことはお父様、お母様には事前に伝えております」

「では、次の王はどうなる……?」

「そうですねぇ……。あっ、私、イイヒトを知っているんですよ!あなた達と違って、絶対に種族で差別しない優しいハーフエルフの女性を」

「「っ!?」」


 その言葉ひとつで、皆の顔つきが変わりました。

 高貴なるハイエルフが失脚しその地位に就くのが一番さげすんでいたハーフエルフなどというのは、屈辱の極みとでも思っていそうな顔ですね。


「ぐぐぐ……!」

「ここまでコケにされたのは初めてだ……。いくら王女とはいえ、許せん!」

「こうなったら実力行使だ!行くぞ!」


 各々が一斉に魔法を唱えますが、どれも低次元のものばかり。


「これでは、ソラ様の教えを受けている聖女学園の生徒たちのほうがずっと優秀です。煉獄炎(インフェルノ)

「な、なんだこの炎は……!?」

「キュイイーッ!!」


 私を守るように手のひらからフェネクス様が現れては、私の肩を止まり木にしました。


「聖獣様……!?」


 私の煉獄炎は練度を上げ、ここら一帯を覆うまでになりました。

 まだまだ師匠にも姉弟子たちにも届きませんが、どれもこれもソラ様のおかげです。


「情けない。それでも魔力が高いことが誇りのハイエルフですか?恥を知りなさい……」

「ぐ、ぐぅっ……」


 どちらにせよ、ハイエルフたちは一度放り出して外の世界を学ばせたほうがいいのかもしれませんね……。


「力で統制すればいいのでしたら、初めからそうしていますよ。あなたたちは魔法の力もなければ、政治の役にも立たない……。そんな役人がここに巣食っているというのなら、私は王家の最後の責務として、この腐りきった聖国の上層部を解体することにいたします」


 そう言って私は会議の場を去りました。


「まだまだやらなければならないことは、たくさんありますね……」


 もう一刻も早く王家なんてやめてしまいたいのに……。

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