第240話 帰還
「藤十郎さんは、何かの属性に適正がありますか？」
廊下で別れる前、僕は藤十郎さんに尋ねた。
「拙者は土属性に適性があるらしいとギルドの水晶が教えてくれた。だが、適性があるからといって魔法が使えたわけではない。せいぜい、刀を持つ前に使っていた土属性の小手を使ったときに相性がよかったと感じた程度のものだ」
「でしたら、この『藤四郎』というのはどうでしょうか？」
土刀、『藤四郎』は僕の知る中で、土属性の最高級の刀だ。
「……幾分か拙者の名に似ているな……」
「私は土属性が使えませんし、余っているので使ってください。せめてものお詫びです」
「かたじけない。これは大事に使わせて貰う」
「ひとまず使い方は魔力を込めて『土気解放』と言っておけば今まで以上の力は出せるでしょう。ただ解放中は魔力を消費しますから、一度限界を知り戦闘中に魔力切れで倒れることがないようにしてください」
「なるほど……」
「藤四郎の扱いに慣れて来たら、また尋ねてください。その時に藤四郎の舞をお教えしますから」
「あい分かった！」
「ソラ様、妹共々お世話になりました」
「妹……？」
ケイリーさんの妹って？
「フィストリア王城で働いているモニカです」
フィストリア王城の猫獣人……。
「ああっ！あの舌足らずなモニカさん！」
「な」が「にゃ」になってしまうひとだよね、確か。
「ふふ、その驚き方で会ったことが分かりますね。あまり似ていないでしょう？」
「そ、そういうつもりじゃ……」
「いいんです。似ていないのは私が一番分かっていますから。またお会いできることをお祈りいたします」
最後に僕は、ケイリーさんの耳元でぼそっと呟いた。
「ケイリーさんこそ、名前で呼び合えるようになることを祈っておりますよ」
「っ！？は、はい……」
顔が真っ赤なケイリーさんを見て、僕は二人の行方を祈ることにした。
寮の自室に戻ると、エルーちゃんが掃除していた。
「シエラ様、お帰りなさいませ」
「ただいま、エルーちゃん。家族とは会えた？」
「はい、お陰さまで……。シエラ様はいかがでしたか？」
「私が立ち直れたのは、エルーちゃんと家族のお陰だよ。色々あったけど、藤十郎さ……樹下さんとケイリーさんに会ったんだ」
「下のお名前で呼ぶということは、まさか……」
「いや、友達になっただけだよ……。藤十郎さんは、刀友達、かな？」
「……そう呼ばれていると、まるで夫を呼ぶ若奥様のようにしか見えませんね……」
「……」
どうしてよ……？
でも誤解が起きるようなら、外で話すときは樹下さんと呼んだ方がいいかもな……。
「あの、ケイリー様という方は？」
「ああ、フラメス山の雪山小屋で藤十郎さんとあった時に、怪我をして倒れていたっていう獣人の女性だよ」
「ああ、あの時の……。お元気でしたか？」
「うん。エルーちゃんにもお礼を言っていたよ。それから、ケイリーさんの恋路を応援してきたよ」
「恋路……。お相手は、樹下様ですか？」
「うん。よく分かったね」
「消去法です。ということは、シエラ様は恋のキューピットということですね」
「いや、そんな綺麗なもんじゃなかったよ……」
その時、椅子に座る僕の後ろから物音が聞こえた。
「ソラ様、只今戻りました」
「ひゃうんっ！」
忍さん！？
耳はやめてってば！
「い、いきなり現れないでくださいよ……」
「ソラ様の弱点は存じておりますゆえ」
「……今度やったら怒りますからね？」
「……申し訳ございません」
「それで、結果は？」
僕は神流さんのほうに聞く。
「ソラ様、大変です！東の国が乗っ取られました。向こうをまとめているのは、東の国の宰相、樹村です」
