第237話 恰好
「目を覚ましましたか?」
「ここは……」
「聖国神社の休憩室です。ザビアー家の皆様に特別にお貸ししていただきました」
正体を現したのは突然のことで、事前に察していたテオさん以外には驚かせてしまった。
壊した神社の舞台は修復し、神社の皆さんには謝った。
テオさんには「我らがエリス様のご友人でございますから、どうか御心のままに」と言われてしまったが、少し行きすぎた信仰に僕も気圧されてしまった。
「エリス様や聖女だって間違えることはあるんですから、いくら信仰があるとはいえ間違っているときは遠慮なく怒ってくださいよ」
と言ったのだが、
「ソラ様は我々の命を守ってくださったのです。我々民は信仰があるかどうかではなく、単純に生物としてソラ様に『私を生かしてくれたこと』への感謝があるのです。多少のわがままくらい、私たちを救ってくださったことに比べれば、『いくらでも仰ってください』となるのが自然ではありませんか?」
と言われてしまった。
「それに、ソラ様が直してくださった舞台、老朽化していたのですが、新品同然にまで直ってしまって、むしろこちらが感謝せねばならないほどなのですよ?」
と顔のいい人ににこやかに微笑まれて悪態をつかれてしまっては、僕は何も言い返せなかった……。
顔がいいってなんというか、ずるいなぁ……。
「ソラ様……。そうか、拙者は……負けたのですね」
僕は布団から起き上がった樹下さんを支える。
樹下さんの回復は既に終えている。
「まずはあなたとケイリーさんに私の正体を偽っていたこと、申し訳ありません」
「そ、それは……」
「私はソラ様や弟子のステラ殿に救われた身……。私をお救いいただいたのがソラ様でむしろ安心しました」
ケイリーさんはそう言ってくれるが、ケイリーさんが見つめる先の人のことを含めて僕は謝っている。
ケイリーさんが樹下さんを見る目が明らかに違うことは、さすがにそういうことに疎い僕でも気づいている。
「私のせいで、樹下さんには誤解を与えてしまったのです。本当にすみませんでした」
「……」
結局、紛らわしい恰好をしている僕が悪いんだ。
「拙者、確かにソラ様の正体には気づいてはおりませんでしたが、ソラ様へのこの恋慕だけは誤解ではなかったと確信しております。拙者はあの雪山でソラ様にお会いした時に一目惚れし、それ以降あなた様を追うため本能のままにここ聖国までやってきたのです。たとえソラ様が拙者のことを嫌っていたとしても、たとえこの思いが片想いとわかってしまったとしても、この想いに嘘偽りはありません」
「いや、それが誤解なのです。私は嫌っていませんし、私はまだ隠し事をしているのですから」
「「隠し事……?」」
テオさんには人払いをしてもらっている。
「私は……男なんです。」
「は……?」
理解できないという顔。
久方ぶりに見たその顔に、僕はまたどう説明したものかと考えながら話していた。
「ですから、私はそもそも男です。最低限これを認めてもらえないと先に進めません」
「ですがっ、ソラ様は聖女様……」
「私を聖女にしたのはエリス様です」
「一人称も『私』ですし……」
その解答に僕はアイテムボックスから早着替えでトレーナーコーデの男装になる。
「僕の本当の一人称はこれです。女装すると勝手に一人称が変わっちゃうんです……」
「そ、そんな……」
「必要に感じたのでお二人には話しましたが、このことは内緒にしてもらえると助かります」
「拙者は、まだ……信じられませぬ。その衣装でも、その……失礼かもしれませぬが男性に見えるとはとても……」
「困りましたね。うぅん…………そうだ!先ほどの仕合、勝ったほうが一つだけいうことを聞くというのがありましたよね?」
「ええ。確かソラ様は『誤解を解きたい』とおっしゃられておりましたが……」
「ええ。僕が女だという『誤解を解く』ために、僕と一緒にお風呂に入っていただけませんか?」




