第229話 父母
折角だから食べていきなさいと言われて夕食を囲む。
僕には卵粥と麦茶を用意してくれた。
「ふふ、こんなに大人数で食卓を囲んだのは久しぶりだわ」
「遠慮しないで食べてくれ」
「いただきます」
どちらもとても温かく、心休まる味だ。
食事にも表れるメルヴィナさんの『お人好し』が伝わってきて、僕はいっそう嬉しくなった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせてお辞儀をする。
大分胃もキリキリとしなくなってきた。
僕に気を遣ってくれたのか、以前来たときにはあった食後のデザートもなく、少し申し訳ない気持ちだった。
「ええと、先ほどから気になってはいたのですが、その『ソラ君』というのは……?」
「あ……」
シェリーは作家だからか人をよく見ていて、目敏い。
「ええと、その……言い辛いことでしたら、聞きません!」
「大丈夫……。僕もそろそろ家族に嘘をつくのはやめるつもりでしたから」
「う、嘘……?」
「まさか……」
それで僕が嫌われるのならば、構わない。
たとえ僕と距離を置きたいと言われても仕方ないことを僕はこの娘達にしたのだから。
たとえそうだとしても、僕の代わりにシュライヒ家や聖女院が預かってくれるかもしれない。
「僕ね、ホントは男……なんだ」
「「っ!」」
案外、言葉は詰まらずに言えた。
一足先に結論にたどり着いていたが改めて確認したシェリーと、今事実を知らされて困惑するセフィー。
お義母様と言われる度に罪悪感に苛まれてきた。
嘘で塗り固めた僕自信を演じ、この子達に真摯に向き合っていないことを後悔してきた。
「最低でしょう?僕は女装して女学園に通い、あなた達を騙していた……」
「でも、それは聖女様の慣例だからよ。ソラ君はエリス様のお願いを叶えただけ」
お義母さんが見かねて僕を庇ってくれる。
「ほ、本当に殿方なんですか……?」
「私達は、いつも『お義母様』と呼んでいたのは、おか……ソラ様のご負担になっていたのですね……」
「いや、そうじゃないよ……。僕が悪かっただけだから……」
「お義父様と、呼んだ方がよろしいですか?」
「っ……!僕のこと、怒ってないの……?」
「どうして?」
「向こうでは、それが普通の反応だったし……。僕、騙していたんだよ?」
僕もお咎めがないとは思っていない。
「お義母様の秘密は今に始まったことじゃないですし……」
「それに、女は秘密が多い方が魅力的と言うではありませんか」
「いや、男だってば……」
「でしたら、私達は幸せですね。だって、お義父様もお義母様も、素敵な人に恵まれたのですから……!」
「僕は二人のお義母さんでいいの?」
「お義母様でないと嫌です!」
こんなに優しいことばかり僕に起きて、罰が当たらないかな?
「あっ……そういえばシェリー……」
そこで何かに気付いたセフィーはアイテム袋から何かを取り出した。
「あっ……」
鮮やかな織物が出てくると、シェリーも何かを察したようだ。
「これ、私とシェリーでおこづかいを出し合って買った羽織なのですが……」
「まあっ、素敵ね!」
ふたりで広げられて出てきたのは、見事な白いシースルーの羽織。
それは僕でも分かるくらい、この間の夏休みに着た白百合の画かれた青い着物に合うコーデ。
もちろん、女性用だ。
「もう、自分のために使いなさいって言ってるのに……」
複雑な心境はあるが、二人に贈り物をされたことは素直に嬉しい。
「大切にするね」
「でも、それは……」
「今更返してなんて言われても、返さないよ。これは大事な義娘からの贈り物だもの」
親馬鹿も極めれば、二人くらいは幸せにできるかもしれない。
「そうだ!明日は皆さんで聖国神社に行きませんか?」




