第225話 新年
最大のトラウマというのは怖いもので、僕はほぼ一週間病んで寝ていたらしい。
久々に食べた食事はお粥だったが見事に戻してしまい、人間食べないといかに胃が弱るかというのを思い知らされたようだった。
「ごめんね、エルーちゃん……」
「いえ、ですが無理しても少しは食べた方がいいですよ」
「そうだよね……」
「栄養が足りていない証拠です。私、暖め直してきますから、白湯で胃を和らげておいてくださいね」
ぱたりと扉が閉まる。
ここは寮。
思い出した悲しい気持ちをまだ整理できてはいない。
「「お義母様!」」
「うわぁっ!ど、どうしたの?シェリー、セフィー」
扉が開かれ、急に部屋に入って来たシェリーとセフィーはそのままベッドに腰かけていた僕に抱きついた。
「び、びっくりさせないでよ……」
「お義母様、ご無事で……」
「もしかして、二人にも心配をかけちゃった……?」
「あ、当たり前です!私、お義母様がお心を病まれて意識がないって聞いて……!」
「でも、私達ではお義母様に何もして差し上げられない……」
「シェリー、セフィー……。こんなに弱い親で、ごめんね……」
「「そんなこと……」」
そこにエルーちゃんが戻ってくる。
「お二人とも、いらしたのですね」
「エルーシア様……」
「お二人とも、ソラ様に言うことがあるのではないでしょうか?」
「言うこと……?」
「あっ……」
なんだろう?
「「お義母様、明けましておめでとうございます」」
「ソラ様、明けましておめでとうございます」
「あっ……」
そっか、僕が寝ていた間に、年が明けていたのか……。
「明けましておめでとう。あ、あれ……?そういえば五国会議は?」
「サクラ様が引き継いでくださいました。会議自体は終わりましたが、王家はしばらく観光してから帰られるそうです」
「お義母様、今はお仕事の話はやめましょう?」
「そうです!お義母様もたまには休んでください」
「で、でも東の国の問題はまだ解決していないし……」
こんな大事な時に、自分だけ休んでいるというのはちょっと……。
「それでもですっ!お義母様は働きすぎですっ!」
「ソラ様、偵察の嶺家はまだ帰られておりません。その間くらいはお休みになられてはいかがですか?」
「お義母様……!」
「わ、わかったよ……」
義娘にも半ば圧されるように休めと言われてしまっては、従う他ない。
「そうだ、休みの間はエルーちゃんもお休みにしておいてね」
「ですが……」
「エルーシア様も働きすぎです!」
「え、ええと……つい先日も、お休みをいただいたのですが……」
「そういうことじゃなくて。新年だし、家族に会ってきたら?」
「っ!?」
僕もシュライヒ家に会いに行くつもりだし、と思い提案してみたら何故か感動されてしまった。
「ど、どうしたの?」
「い、いえ……。ソラ様はご家族で大変な思いをされたのに、私だけこれだけいい思いをさせていただくのは……」
「違うよ、エルーちゃん」
「へ……?」
「僕はエルーちゃんとエリス様のおかげであのトラウマから立ち直れた。だからこれは僕からの、ただのエルーちゃんへの恩返しだよ」
「ソラ様……。ありがとうございます」
エルーちゃんのはにかむ仕草を見て、僕は少し安らぎを感じた。
「ぼ、僕……?」
セフィーが抱きつくのをやめ、すっとんきょうな顔をしてこちらを見つめてくる。
「セフィーは知らなかったのね。お義母様、パジャマの時は一人称は僕なのよ」
「そ、そうなのですか?」
そういえばシェリーには以前言ってたな……。
そのせいで僕が僕っ娘だと思われていることになっていたような……。
「その辺の誤解も解かないとね……」
「誤解……?」
「シェリー、セフィー、今から支度して」
「えっ……」
「シュライヒ家に二人を紹介しに行こうと思う」




