第211話 弱味
「ソラ様!」
続いてやってきたのは、フィストリア王家だ。
「先程ぶりですね」
「ええ。サクラ様もごきげんよう」
「「!?」」
「貴女が噂の天才王女ね」
「……」
「な、何……?」
「エレノアさんが猫被ってる……」
こんなの、フィストリア王城に侵入したとき以来だ……。
「なっ、ソラ様まで!?全く、みんなして失礼だな……!」
家族にも言われたのだろうか。
今日は外向きの顔のようだ。
「そうしているほうがらしいですよ、エレノアさんは」
「随分と親しそうじゃない……?」
「ええ、親友ですから」
「そうなのね」
エレノアさんがそう言ってくれるのは嬉しいが、弱みがある手前、僕のほうから親友と言うのには少し躊躇いがあった。
「アレクシアさんもお久しぶりです。あれからいかがですか?」
「リタの余罪は多く、貴族の中には協力者もいたらしく……。王家としてはまだまだ課題も残しています。……これまで5年間も野ざらしにしてしまった罰でしょう」
「私も気付けなくて申し訳なかったわ」
「そんな、もったいなきお言葉……」
アレクシアさんの反応を見たサクラさんが思わずぎょっとした。
「どうしたんです、サクラさん?」
「……なんだかアレクシア、変わった?」
「そうなんですか?」
僕はもう会ったときからこうだった気がするけど……。
「以前はこんなに聖女信仰強くなかったというか、むしろ私には内心敵意向き出しだったはずだけど……」
「申し訳ございません。あの時は身内のことで手一杯でしたから。リタは当時リタの娘だと思っていたエレノアを擁立し、上皇になる腹積もりでした。私はちっぽけな理由で我が子を隠し通してきたのですよ……」
「リタと切り離す名目だったとはいえ、僕を聖女学園に通わせようとしたことには感謝しているよ」
「全く、そういう後ろ楯こそ、私達を頼ればいいのに……」
サクラさんに僕も完全に同意だ。
「聖女と鋏は使いよう、ですよ」
「……流石に聖女を馬鹿に例えるのはどうかと思いますよ、ソラ様」
「いや、ソラ様なら本気でそう思ってると思う……」
そりゃあそうだ。
こんなの、使ってなんぼだもん。
「そういえばソラ様、お耳にいれておきたいことが」
そう言うと、アレクシアさんは僕の耳元でぼそりと息を吹き掛けるように呟く。
「……今年の会議、東の国にはお気をつけください」
「ふぁあんっ!?」
どうして僕はいつもこうなんだ……。
「耳はやめてぇっ……」
へたりこむ僕に呆気に取られる皆。
「ちょっと!ソラ君は耳が超絶弱いんだから気をつけたまえよ!」
「そ、そうでしたか!大変失礼しました……」
ヤバイヤバイヤバイ。
一番見つかってはいけない人に見つかってしまった……。
「ふぅん……」
サクラさんなんかに見つかったら、弄られるに決まってるっ……!
断罪の時を待ち身構えていたが、なぜか音沙汰がない。
「って、何してるんですか?」
目を開けると、何故かサクラさんはアレンさんの手首をつねっていた。
「牽制」
「牽制って……。流石にアレンさんは私に欲情したりはしないでしょう?」
「…………」
「…………」
えっ、なんで無言なの?
「ソラ様、少しは自分の魅力に気付くべきだよ」
イヤイヤ、アレンサンハコモチノダンセイ。
ボクトオナジセイベツ……。
ソンナコトハアリエナイ……。
……ナイヨネ?
一向に首を縦に振ってくれないアレンさんに、一層と手首をつねる力を強めるサクラさん。
もう僕には収拾をつけられないよ……。




