閑話57 守破離
【橘涼花視点】
今日は父上のお手伝いをしていた。
とはいえ花は父上の趣味でもあるので、私からあまり余計なことはしたくない。
私が刀を好きなようなものだろう。
父上は何も言ってはこないが、父上が刀のことにあまり干渉はしないようにしているように、私もそうしている。
私はいつものように接客や裏方の力仕事のお手伝いをするだけだ。
「いつもありがとう、ご婦人」
私は父上がアレンジメントした花束をご婦人に渡す。
「涼花様もありがとうございます。うふふ、こんなに美しい花屋の店員さんに接客してもらえるなんて、役得ですね」
「ご婦人はお上手だね」
「あら、本心ですよ。また明日も来ますね」
「申し訳ない。実は明日からしばらくお休みなんだ」
「そうなのですか?」
「ええ。少し公務が控えておりますから……」
「公務……ああ、もうそんな時期なのですね」
手を振ってから去っていくご婦人を見送る。
聖女の親族である私達はただ話を聞きに行くだけ。
公務といえば公務だが、今年は明らかに違うものになるだろうという確信があった。
その日の閉店作業をし、「しばらく休業します」と張り紙をしておいた。
翌日、朝早くから私達は聖女院に赴いていた。
「ようこそお越しくださいました、ブルーム様、涼花様。お部屋へ案内いたします。どうぞ」
案内されてメイドさんに付いていく。
やはり聖女院のメイドさんは粒揃いが多すぎる。
聖女様はいつもこんなに可憐な人達と接しているのだから、目が肥えていても不思議ではないだろう。
「おや、そこ行く御仁は……」
廊下ですれ違った人は、先に着いていた東国の王家達だった。
「これはこれは!ブルーム殿に涼花殿!一年ぶりでございます」
皇帝樹弥殿と王妃青葉殿。
「今年もよろしくお願いしますね」
まるで雛人形のように白い顔でにこやかな笑みを浮かべる青葉殿は綺麗すぎて怖いと思えてしまう程だ。
そして、因縁の相手がその側仕えにいた。
「師匠、お久しぶりです」
「ブルーム殿、涼花殿、お久しぶりですな」
幼少の短い間だが、私はこの樹下殿に刀術の何たるかを教わった。
今となっては一年に一度この期間に教えを乞うのみ。
「その佇まい、また腕をお上げになられたようですな。だが、拙者もまだまだ負けませんよ」
「今年もご指導、よろしくお願いします」
「ええ。ではまた後程」




