閑話56 話題性
【シェリル視点】
朝。
「ねぇねぇ!今朝の新聞見た?」
「見た見た!大聖女様イチオシの恋愛小説があるって噂でしょう?」
「私、気になって買っちゃった……」
「わ、私も持っていますわよ!」
「何故か引き込まれるのよね、あの作品……」
ウサギ獣人の篠塚リリスが話題を切り出す。
Aクラスはいつもこんな感じだ。
「ねぇねぇシェリルんは?」
「お義母様から何か聞いていませんか?」
というよりも、私がその作者なのだけれど……。
まさかクラスメイトも、作者の前で話題に出しているとは思うまい。
「私がお義母様のことを漏らすわけないでしょう?」
小説のことで迷惑をかけている分、他のことで迷惑をかけるわけにはいかない。
「ケチー!じゃあシェリルんは読んだの?」
「え、ええ……もちろん」
「ふふ、カラダは正直デスねぇ……」
じゃれて胸をまさぐってくる。
「ちょっとリリス!よ、よして頂戴……」
「あら?また大きくなったの、この子はっ!」
「ふぁんっ!や、やめ……」
「やめなよ。シェリーが嫌がってるでしょ」
リリスの魔の手の動きを止めてくれたのは、セフィーだった。
「ご、ごめん」
「セフィー、ありがとう」
「いいよ、別に……」
セフィーはそのまま教室を後にした。
「あの子どしたの?生理?」
「……」
いや、恐らく持たざるものの嫉妬だと思うが、何も言うまい。
世の中にはそういう需要もあるのだと、セフィーには伝えてあげたかった。
しかし、こんなに話題に出してもらえるのは、ひとえにお義母様のお陰だろう。
あのインフルエンサーに勝る人はこの世にはいない。
「シェリル、ちょっといいかしら?」
お昼休み、私はライラ様に呼び出された。
新聞を取りだし、私に証拠として突き出す。
「これ、一体何があったの?」
「お義母様とセフィーが私の本を買いに行ったんだそうです。それでお義母様が店員さんにサインを求められて応じたら販促に使われてしまったみたいで……」
「それはまたおかしな出来事ね……。シェリル的には問題はあるのかしら?」
「ご心配くださりありがとうございます。本当は恥ずかしくて読んでもらいたくなかったのですが、同時に私の趣味を認めてもらいたい、興味をもってほしいという願望もあったんです。ですから、今無性に嬉しいんです」
「そう。ならいいわ」
一番読んでもらいたくもなかった相手だけれど、一番認めてもらいたかった相手。
やっぱりまだ自分をさらけ出すのは恥ずかしいけれど、「面白かった」って言ってくださったことは一生忘れない思い出になるのだった。




