第205話 玄武
淡い青の短髪に首から下に蛇をファッションのように巻き付けた青年が横になっていた。
「ええと……どなたですか?」
「「「えっ……?」」」
僕がその正体に気付いていると思っていたのか、当てが外れた三人はすっとんきょうな声をあげていた。
「ここには玄武がいるはずなのですが……」
「ん?」
「玄武は蛇に巻かれた亀。こんな人間ではないはずなのですが……」
いや、何となく違和感を感じてはいるんだけど、受け入れられないというか、受け入れたくないというか……。
「なんや、ワイに用あったんやないか!にしても自分、人間にしてはワイのこと詳しいな!」
「よっと」と言って起き上がる。
「ワイは玄武。神獣の一柱や」
「えっ、ええっ!?」
まさか、この青年が玄武だったとは……。
ゲームと全然違うからびっくりした。
でもよく見ると、しっぽとかあるし、人種族ではないのはわかる。
でも、何でエセ関西弁……?
「ん?おお!」
「えっ……」
玄武と名乗ったその人は、エルーちゃんを見ると手をとった。
「ワイの子の加護を持っとるやないか!なあなあ、それ何処でもらったん?」
「お父様!軽々しすぎましてよ!」
ああ、この親にしてこの子ありだな、確かに……。
エルーちゃんの腕から飛び出してきたティスに遮られる。
「なんや、えらい過保護やないか。それとも、ワイの言うことが聞けんと?」
「御父はいっつもそうやんか!口ばっかになってもうたんも御父のせいや!たまには娘を気遣ったらどうや!」
ティスも感情が高ぶったのか、素が出ている。
「あの、ティス……?」
「はぁ、はぁっ……はっ!?しまった……!?」
「なんや、猫かぶっとたんかテティス」
「な、なんのことでしてよ?」
「いや、流石に無理があるでしょ……」
「くっ……よりによってソラにバレるなんて……」
僕じゃなきゃ良かったの……?
「ソラ……もしかして自分、あの大聖女ソラか!?」
「そうですけど……」
「ひ、ひぃっ!?」
名前を確認したと思ったら、急に祠に立て籠る。
「堪忍したってや!……チラッ……もう殺さんといてや……!……チラッ……」
何チラチラしてんの……?
「以前のことはごめんなさい。今日は私はなにもしないですよ」
「ほんまか……?」
「ええ」
僕は、ね……。
しかし、こうしていると年相応の青年のようなんだけどな……。
「なんだか面白い御方ですね……」
「というか、私の知っている玄武はもっと大きな亀だった筈なんですが……」
「ソラは神獣が人の姿になれるんは、知らん?」
「ええっ!?そんな能力あったんですか!?」
「天下の大聖女様でも知らんことあるんやな」
「だって、ハープちゃんはそんなことしたことなかったですし……」
他の神獣だって擬人化したところを見たことなんてほとんどいないから、そういうものだと思っていた。
「ああ、教皇ちゃんは恥ずかしがりなんや。あんなに可愛らしいのになぁ」
「そ、そうなんですね……」
なんか急に気の良いおっちゃん感出てきたな、玄武……。
「で?ソラがわざわざ来たんは何なん?」
「玄武、お願いがあるの」
「な、なんや……?ソラと戦うんだけは堪忍やで……」
「どうしてソラ様はこんなに嫌われているのですか?」
「過去に何度も闘ってるせいだと思うけど……」
「あんなん闘いやない!ワイが一方的にしばかれ続けるだけ。ただの蹂躙や……」
「ソラ様は神獣様にも容赦ないのですね……」
ゲームの中だと思ってただけだから……。
大分話が逸れたが、僕は本題を切り出す。
「実は、エルーちゃんに玄武の加護を与えてほしいんです」




