閑話51 御台臨
【橘涼花視点】
<またもや涼花選手の勝利!!今年も『紺碧の刀姫』が優勝を勝ち取ってしまうのでしょうか!?>
ミアの実況をよそに、私は敗者の言葉に耳を傾ける。
「負けた……。涼花様、強い」
「ソーニャ君もな。ダガーは刀とは相性が悪いというのに、それを俊敏さで補う戦闘スタイルは流石冒険者といったところか」
「そっくりそのまま返す」
最近冒険者家業にはご無沙汰だったから、忘れてしまっていた。
「すまない。気に障ったか?」
「平気」
握手をした後、舞台を捌けるとソラ様が待っている。
透明で何も見えないが、きっとそこにいらっしゃる。
この大会を台無しにしようとした輩には同情の余地はないが、ソラ様が迎えてくださるこの状況には、凄く感謝していた。
ご尊顔が見えてしまえば、また私はだらしない顔になってしまうだろう。
だから私には、「向こうから一方的に見られている」今の関係くらいがちょうどいい。
「ご苦労」
しかし、透明な空間から聞こえてきた声は、予想していたよりももっと低い声だった。
顔の透明化が解除されると、そこに現れた天使の輪っかに、私は思わずぞっとしてしまう。
「ど、どうしてあなた様が……」
いや、大天使様が動かれる理由なんてひとつしかないだろう。
それは主であるエリス様がお決めになること。
「『大きくなったわね、涼花……』」
急にお淑やかな女性の声がシルヴィア様と重なって聞こえる。
シルヴィア様とは母上が生前の時に数回会ったことがあるが、これほど高い声ではなかった。
私は思わず片膝をつき、頭を垂れる。
「お初にお目にかかります、エリス様」
「『アオイを助けられなかったこと、申し訳なく思っているわ……』」
「そんな、勿体なきお言葉……」
否定しなかったということは、そういうことのようだ。
それを察したソーニャ君も隣で頭を垂れる。
まさか生きているうちに神様の玉音を拝聴できるとは思わなかった。
「『ああ、そういうのはやめて頂戴』。今は奥方様の代わりを勤めているに過ぎない。我々のことより、試合のことに集中したまえ」
奥方様……。
そうだ。
ソラ様は本来、エリス様が恋に落ちたお相手。
私なんかがどうこうしていい相手ではないのだ。
「畏まりました」
この想いだけは、このお方に悟られるわけにはいかない……。
神様との初対面は、心臓がバクバクとしていてはち切れそうだった。




