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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第23章 奇策妙計
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第179話 精算

「彼は、ゲイル・ワイアット男爵ですね?」

「いつの間にそんなことまで……」

「実はルーク……お兄様にお願いして調べて貰ったんです」

「な、なんだとっ!?」


 それはつまり、既に聖女院に知れ渡っているということに他ならない。


「私は今回、本気ですよ」

「どうしてそこまで……」

「あなたは『精霊樹の杖』を使った生徒に対して、何も思わないのですか?」


 それが僕自身のことなら、何も思わなかったかもしれない。


「力を見せつけるべき大会で実力を誇示できることに、何の不満があるという?」

「それはまだ本人の到達できていない実力だということですよ。もしこれでスカウトされてしまえば、彼女達は『精霊樹の杖』ありきの実力を基準に見られることになります。現実との差を知るのが後になればなるほど、お互いの溝を深めるだけです」


 この不満には少しだけ私怨が入っている。

 姉は自分を造って人を騙すような人だったから。

 そのせいで割を食うのはいつも弟の僕だった。


 きっとあの人は僕がいなくなっても、別の誰かを貶めて生活しているんだろう。


「だが、力がなければ誰からも目に留められることはないし、スカウトもされないのだ。貴様にその悩みや辛さが分かるか?」


 ミカエラ先生も過去に何かあったんだろうか?


「……わからないですね」

「大聖女様の後ろを追いかけているだけでいい奴にはわからないだろうな」

「私にはわからないですよ……そんな幸せな悩みは」

「えっ……?」


 僕の人生は極端なんだと、今更ながら思った。


「以前の私は回りの誰からもいじめられ、それに抗う力すらありませんでした。命令されればその通りにしないと体罰(仕置き)が待っています。私は今自分が見えることに精一杯でした。ですから、クラスでトップ3に選ばれて、既に将来のことに頭を悩ませているカーストトップのことなんて、聞かれてもわかりません」

「……そんなはずはない。大聖女様に見初められた奴が、後天的に才能を開花したとでも言うのか?」


 ああ、そういえば元のシエラはそういう扱いをされていると思ったのか……。


「……シエラさん、そろそろ……いいのではありませんか?」

「学園長……」

「これ以上侮辱されるのは、私とて我慢なりません……」


 僕の主張を優先するために聞きに徹してくれていた学園長も手がぷるぷると震えており、今にも飛びかかってしまいそうな勢いだった。


「エディス様、これから起こることは内緒にして貰えますか?」

「貴女、何を……」


 もうすぐ三年生は卒業だし、大丈夫かな……。

 僕はウィッグを外し、声色を元に戻す。


「ま、まさか……!?」

「う、嘘っ……!?」

「今でこそこんな身分になっていますが、この世界に連れてこられるまでは、私は世界の底辺にいました」

「大聖女様……」

「ですが、そんな私でも一度だけ過大評価されたことがあるんです。幼稚園の劇で、大人の人達に揃って誉められたんです」


「ソラ様、それは過大評価では……」

「いえ、本当に過大でしたよ。幼い割には恥じらわずにやっていた程度のものを才能と称えられたんです……。その結果、同じ幼稚園の生徒でたまたま同じクラスの演劇部のその子が中学校の文化祭の演劇の助っ人にどうしても私を出してほしいと懇願されました。もしそれがなければ、私は今でも学校でいじめられずに平和に暮らしていたかもしれません」


 家族には……まあいじめられずにというのは無理だろうな……。


 その子にももう恨みはない。

 終わったことだし、今はもう別の世界にいるからね。


「過大評価されると、いつかその精算をしなければいけないタイミングが来るんです。それが生きているときか、死んでいるときか、精算するのが自分か他人かは人によると思いますが……。ミカエラ先生は、そんな重荷を生徒達に植え付けたということです。上に立つものとして、あまりこんなことは言いたくないですが、入学式に話した私の理想を邪魔するつもりですか?」

「そ、そんなつもりは……」


 ソラとして話していると、いかに普段(シエラ)が舐められているかよくわかってしまう。

 親しみやすいという面ではプラスに働いているかもしれないが、それ以外にメリットはない。


「それにスポンサーと生徒間の信用を失えば、やがてそれを排出した学校への信用も落ちていきます。貴女のしたことは長い目で見ても、学園にとってマイナスになるでしょう」


 学園長も追い討ちをかけるように僕に続く。


「あなたには、追って処分を……」

「学園長、私がそれを嫌っているのはご存じでしょう?」

「ですが、学園にも立場というものがあります」

「でしたら、私から最後のチャンスを与えます」


 僕がミカエラ先生の肩に付いている白百合の腕章に触れると、虹色に輝きだす。


「これは……聖印!?」

「それが灯っている限り、あなたの信用は担保されることでしょう」


 逆に、これが消えてしまったら……。

 いや、ミカエラ先生ならきっと、大丈夫だろう。


「それが消えないように、努めてくださいね」

「あ、ありがたき幸せ……」


 言わせてしまった気がする……。


「それでは、どうしてゲイル男爵と口論していたのか、話していただけますか?」

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