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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第22章 鶏鳴狗盗
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第174話 組手

 みんなの心配は杞憂に終わり、大会は更けていく。


 「よりスカウトされた方が……」なんて結構控えめな条件を出したけど、結局ベスト8まで勝ち残ったのは僕の教えた生徒達だけだった。


 負けた子達も各々、自分のしたいアピールができたと喜んでいたから、思わぬ妨害はあったけどうまくいったようだ。


<ベスト8の見逃せない試合!向かって右手の試合のご紹介をいたしましょう。前回大会優勝者、2年Sクラス、マヤ・エドウィン!対して、下克上なるか!前準優勝の我らがハインリヒ王女、3年Sクラス、ソフィア・ツェン・ハインリヒ!注目の一戦です!>


 僕の試合はもう終わり、向こうではマヤ様とソフィア会長の試合をやっている。


 向こうの勝った方と僕が戦うことになっているが、それは決まってからの楽しみにしておこう。


 僕はリリエラさんとエルーちゃんの試合を応援していた。


<頭脳明晰、容姿端麗なパーフェクト・レディは戦闘も強いのか!?誰でもいいからこの女を止めてくれ!1年Sクラス、リリエラ・マクラレン!>


 リリエラさんも一年生でベスト8まで残るのだから相当の実力者だよね。


<この可愛らしいメイドちゃんが勝ち上がってくると、誰が予想しただろうか!?今大会のダークホース、このメイドちゃんはいったい何者だ!?1年Sクラス、エルーシア!>


 実況のミア様、めっちゃノリノリだな……。

 随分と楽しみにしていたみたいだしね。


「二人とも、がんばれー!」

「ふふ、愛しのご主人様が応援しているじゃない」


 愛しのて……。


「あの、リリエラ様……」

「言っておくけど、わざと負けなんてしたら許さないわよ」

「うぅ……」

「そうね、じゃあ私が勝ったら、お風呂場で聞いたエルーシアさんの秘密をシエラさんに伝えることにしようかしら……」

「っ!?」


 エルーちゃんが突如顔を真っ赤にすると、険しい顔つきになる。

 エルーちゃん、何か弱みでも握られてるの……?


「ま、負けられませんっ!」

「そうこなくてはね」


<皆様、準備はよろしいでしょうか!では、注目の試合に、スリー!ツー!ワン!>


 観客と一緒に「トリック・スタート!」と声をあげる。


 エルーちゃんは僕の言いつけを守るように先手を譲る。


落雷(サンダーボルト)!」


 リリエラさんの落雷(サンダーボルト)も大分練度が高くなっている。


 エルーちゃんはリフレクトバリアで弾き返すが、真上から落ちてくるのを横に弾き返すのは結構難しい。

 雷はそのままあらぬ方向に飛んでいく。


「シエラ様のようにはいきませんね……」

「やっぱり、エルーシアさんに普通のことをしても通用しませんか……。では、これならどうでしょう?」


 リリエラさんは杖をしまいバチリバチリと体全体に雷を纏うと、一瞬で間を詰めエルーちゃんの懐に潜り込む。


「っ!?」


 これは、属性付与魔法だ。

 詠唱のいらない無属性の身体強化と雷特有の速さを使って速度に特化した動きを実現させた。

 そこからまるで腕吸われるかのように体全体の雷を手に一点集中させると、高速パンチを繰り出す。


 エルーちゃんはギリギリで障壁を張るが、呆気なくパリンと破れてしまった。


 障壁が通用しないと理解したエルーちゃんは防ぐことをやめ、体を動かして避けることを選んだ。


 そのまま杖をしまって二撃目も躱すと、三撃目に合わせて、氷を纏った拳を付き合わせた。


「くっ!?」


 そのまま氷と雷の手での組手が始まる。


<おおっと、どういうことだぁっ!?魔術大会にもかかわらず、なんと武術で殴りあっております!来週の武術大会まで待てなかったのか!?>


 まあ付与魔法も一応魔術の一種ではあるから……。


「貴女!武術の心得まであったのねっ!」

「シエラ様に言われるがまま教わりましたが!こんなところで使うことになるとは思いませんでしたっ!」


 エルーちゃん、僕に教わったとか余計なこと言わないで……。


 バシバシと大きな音を出して組手が行われる。


 リリエラさんの蹴りをしゃがんで回避したタイミングで、エルーちゃんが奥の手を使う。


「いきますっ!」


 手首と足首から後ろに向かって高圧で水を噴射し出すと、今までにないバシンという音にかわって、リリエラさんは後ろに後退する。


「ッ!?」


 水を流したホースがひとりでに動き出すような、強い水の推進力を使って自らの速度と威力を上げる技術。

 多分この間ステラちゃんとフラメス山に登った時に、水の推進力で自分の背中を押したことから着想を得たんだろう。


 通常の身体強化に加えて氷の拳、それから手足の推進力用の水と消費魔力も多ければ同時にやらなければならないことも多い。

 ティスの水の加護とエルーちゃんの器用さ、そしてエルーちゃんの独創性があって始めて成り立つ技だ。


 これのおかげで1日スパークリング指導しただけで精霊女王(ヴァイス)と互角くらいの実力にはなっていたから、将来有望すぎる……。

 ひとたびバランスを崩せば、そこからどう攻めれば相手に反撃の隙を与えないかはそのときに教えた。


 エルーちゃんが畳み掛けるように左ストレートを入れ、最後に右手に水の推進を込めて脇腹に強烈なパンチを入れると、リリエラさんが吹っ飛んだ。


大洪水(グレート・フラッド)!」


 エルーちゃんは杖を構えて全てを飲み込む巨大な水で多い尽くすと、ビィィイイイイとブザーが鳴った。


<武術と魔術をそれぞれ制したのはなんと、エルーシア選手だ!>


 リリエラさんはエルーちゃんと握手を交わす。


「やられたわ。本当に強いわね……」

「先生に恵まれただけです。リリエラ様も師事すれば、きっと……」


 ただでさえ隠すのが大変なのに、これ以上リリエラさんに余計なこと言わないでっ……!


「ふふ、私は()()()()()()()()()()から遠慮しておくわ……」


 なんかよくわからない誤解が生まれたけど、断られたのは助かった……。

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