第169話 信用
「過労と熱と寝不足ですね。シエラ様はいつも頑張りすぎです……」
「ふぁい……」
確かに寝る時間はあまり取れていなかったけど、それを言うならイザベラさんだってあまり寝れていないはずなんだけどな……。
単純に体が弱いだけな気がする。
「いざべらさん、ごめんなさい……」
「シエラ嬢、こちらこそすまなかった……。私は貴女の行為に甘えすぎていたようだ。暫くは手合わせは大丈夫だから、ゆっくりと治してほしい」
心配して寮の中まで付き添ってくれたイザベラさんにお礼をして、僕はそのまま眠りについた。
翌朝、結局熱は下がらずに僕は初めて学園を休んだ。
まともに喋れるようにはなったから、エルーちゃんには行くと言ったんだけど、寮の全員から揃いも揃って休めと言われてしまった。
こうして独りベッドで横になっていると、少し寂しく感じてくる。
以前はこんなこと感じなかったのに……。
いじめられていた当時は進んで独りになろうとしていた。
それが僕なりの処世術だったし、他人となんて関わりあいたいとも思っていなかったから、独りでいることにむしろ安堵を抱いていた。
それが、こっちではどうだろう?
以前と全く真逆の感情を抱いている僕に、僕自信が一番びっくりしている。
これは、みんなの優しさに触れてしまったせいだ。
僕のことを放っておいてくれなかったせいだ。
コンコンとドアを叩く音がする。
「どうぞ……」
がちゃりとドアが開かれると、昼間だというのに現れたのはリリエラさんだった。
「リリエラさん、どうして……?」
「昼休みに来たのよ。親友が寂しくしていると思って」
「そんな、わざわざ来なくても……。申し訳ないです」
「その割には、嬉しそうね」
「それはもちろん……」
実際、寂しかったのだから。
「ぼ……私のせいで、今日は講師ができなくてすみません……」
「そんなこと、気にしないの」
「でも……」
今は皆大事な時期なのに。
「貴女達師弟は、揃いも揃って同じことを言わせようとするのね」
「……どういうことですか?」
「貴女が風邪で休むのは仕方ないこと。その教えを強く引き継いだエルーシアさんと私達で一日くらいなんとかするわよ。少しは私達を信用して頂戴」
「あっ……」
信用。
そういえば、ソラのときにも言われた事だ……。
他人のことは基本信用できないと思い込むのは、僕の悪い癖だ。
「貴女には貴女のやるべきことがあるでしょう?今やるべきことは何?」
僕の、やるべきこと……。
「熱を治すこと、ですか?」
「分かっているなら、最善を尽くしなさい。私よりある頭を使って、一日でも早く元気な貴女を見せて頂戴」
「は、はいっ!」
僕は、この親友に見付けて貰えて、幸せだと感じていた。




