第155話 殺生
「今日から魔術大会と武術大会の練習が始まりますっ!今から名前を呼び上げた6名は放課後に地下訓練場に移動してくださいっ!」
地下訓練場……?
というかここの施設に地下なんてあったの……?
「魔術大会1-S代表、シエラ・シュライヒさんっ、エルーシアさんっ、リリエラ・マクラレンさんっ……」
僕とエルーちゃんで二枠を消費してしまっているのは申し訳ないな……。
「武術大会代表1-S代表、イザベラ・フォークナーさんっ、ノエル・ライマンさんっ、ソーニャさんっ!」
代表選手は確か戦闘実技の成績で決まっていたはず。
ソーニャさんもこの中ではトップの成績だったんだ。
「お二人と一緒に出場できるの、嬉しいですわ」
二年生の教室がある中央棟の一階の奥。
外に通ずる扉かと思っていたが、そこは階段となっていた。
「ここが、地下訓練場です」
「リリエラさんは訓練場の場所をご存知なのですね」
「ええ。マクラレン家は毎年スポンサーですから。ですがシュライヒ侯爵家も毎年スポンサーだったはずですが……」
「あ……」
そうだったのっ!?
「わ、私はシュライヒ家に招かれてまだ日も浅いですから……」
「そ、そうですよね……ごめんなさい、ただの独り言ですから」
リリエラさんに余計な気を遣わせてしまった……。
下に降りて行くと、やがてその全貌が見えてくる。
地下だというのにとても広く明るく、芝が生えていてあまり地下という感じがしない。
ん?でもなんかどこかで見たことがある気が……。
「この訓練場はエリス様がお作りになられた空間と言われており、第二の神域ともいえるこの空間では誰一人として殺生が行えないようになっております」
エルーちゃんが解説してくれる。
「殺生が行えない……?」
「吹き飛ばされても、腹が抉れてもダメージがないということです。ここは世界一安全な場所と言えます。ここは聖女様から『チュートリアル』という別称で呼ばれている場所でもあります」
ああ!思い出した。
聖女学園なんてもの、ゲームの世界になかった。
ゲームではこの位置に建てられていたのはちょうどチュートリアルを行っていた場所だ。
チュートリアル後でも気軽に来れて、武器の試し打ちなどができてとても重宝していた覚えがある。
確か致死量のダメージを受けるとアラートが鳴る仕組みになっていた気がするから、それを利用して試合を行うのかな?
ダメージを受けないというのは、チュートリアルならではだと思っていたけど、現実ではそういう仕組みになっていたんだね……。
「普段から解放しないのは、人々が悪いことに使わないようにするためです。エリス様との信用のもとにこの空間がありますから」
確かに、ここに立て籠られたらどうやっても裁けなくなる。
それに、こんなところでいじめが起これば、大変なことになりそうだ。
――嫌な思い出を少し思い出してしまい、うつむいて歩く。
「シエラさん?変なこと考えてないで、行きますよ」
親友は、僕を引っ張ってくれた。
客席から降りると、いくつかの見知った顔がいた。
「やはり一年S組の諸君は見知った顔が多いな」
「ふふ、まあ毎年聖徒会は優秀な成績の人がなっていますから、自然とこうなってしまうのですよ」
「それじゃあライラ様が可哀想ですよぉ」
「涼花様に、ソフィア会長、それにミア様!」
見知った顔がいて良かった。
奥を見ると、セフィーもいるようで、同じクラスの人と話していた。
我が義娘の優秀さに気付けて少し嬉しくなる。
「ライラさんは自分で戦闘実技が苦手と仰っていましたからね……。ライラさんにはライラさんなりの素晴らしいところがありますよ」
僕は頷くと、奥から更に見知った人を見かけた。
「お久しぶりです、シエラさん」
「アレン……様っ!?まさか、武術大会の講師って……」
「ええ。今年は私が担当です。丁度良かった」
アレンさんは、僕の前までくると、方を叩いて耳元でぼそりと呟いた。
「あとでお聞きしたいことがあります」
「ふぁんっ……」
不意打ちだったために、僕はへたりこんでしまう。
「アレン様、まさか……浮気……?」
「違……」
「ち、違います!シエラ様はお耳が弱いのです!」
エルーちゃん、そんな皆に聞こえるように言わなくても……。
「シエラ様、立てますか?」
「う、うん……ありがとう」
「すまない、シエラさん……」
「いえ、今度から気を付けてくだされば……」
「ふふ、何やっているのですか、あなた方は」
そこに学園長と魔法学のミカエラ先生がやってくる。
「全員集まりましたね。では今日から代表選手の練習期間に入ります。来るべき本番までに自分を磨いておいてください。武術大会代表選手はアレン様のもとであちらに移動してください」
ぞろぞろと武術大会代表選手が掃けていく。
「私達の講師は、ミカエラ先生ですか?」
「今回は魔術大会の選手の皆さんには二人の講師から選んでいただきます」
「ミカエラ先生か、学園長かということですか?」
「いえ、私は説明に来ただけですよ」
「では誰が……」
「シエラさん、前へ」
そんな紹介の仕方をしなくてもいいのに……。
……皆の視線が痛い。
「一年の、シエラ・シュライヒと申します」
「この生徒の皆さんにはこちらのシエラさんか、ミカエラ先生のどちらかから選んでいただきます」
「えっ……!?」
バッとリリエラさんがこちらを向く。
聞いていないとでも言いたげだが、こちらとしても言うわけにはいかなかったからね……。
「ミカエラ先生のことは皆さんご存知でしょうから、シエラさんの紹介をしておきますと、大聖女ソラ様のお弟子さんで、学園長になってから入試で初めて私を倒した人です」
そう言われると段々と胡散臭くなってくるよ……。
「ああ、噂の……」
「可愛らしいですわね」
ざわめきだす代表選手達。
可愛いは判断基準とは関係ないよね……?
話を通しておいたエルーちゃんやソフィア会長のほか、リリエラさんや一年生などは僕の方に集まるが、それでも四分の一くらいだった。
対して僕が講師であることに不安がある人達は皆ミカエラ先生の方へ移動する。
「あの……」
一人の先輩が手を上げた。
「2-Sのマヤ・エドウィンさんでしたか、なんでしょう?」
学園長が名を覚えている生徒ということは、戦闘実技が優秀な先輩なのだろうか?
「私はお二人の実力を実際に見たことがありません。ですから、私達にもう少し判断材料をくださいませんか?」
淡々と話すマヤ様。
「具体的には?」
「ミカエラ先生とシエラさん、お二人で戦って見せてくださいませんか?」




