第151話 杪夏
今日は中心街『聖女の通り道』でお祭りがある。
お祭り好きの聖女が始めたことから毎年行われるようになったらしい。
西洋の街並みで行われるのが和風のお祭りなのだから、思わず「それでいいのか?」と思ってしまう。
この日、僕は寮のみんなを集めた。
「シエラちゃん、話って?」
「以前、西の国遠征に行ったときの残りのお土産をすっかり忘れていたのでお渡ししようかと思いまして……」
「食べ物なら腐っている気がするが……」
「流石にお洒落の国で食べ物は邪道でしょう?」
それに、アイテムボックスのアイテムは腐らないよ。
僕はアイテムボックスから色とりどりの反物を取り出すと、ロビーの机に広げてみせた。
「わあぁ……!」
「皆さんの好みがわからなかったので、買えるだけ買ってきました。着物と帯の柄を決めたらクラフトするので私に渡してください」
みんなでわいわいと着物の柄を選んでは僕がクラフトをする。
そこまで凝ったものはできないけど、クラフトするだけで着物が出来てしまうのだから、異世界は便利だなと思う。
僕がクラフトして、聖女院のメイドさんが着付けをしてくれる。
メイドさん達には今日のために着物を作って渡しておいた。
聖女院の男性陣にも浴衣や袴を渡しているし、サクラさんにも浴衣を渡している。
今日くらいはみんなで楽しんでほしい。
「ソラ様は着ないの?」
「私はいいですよ……」
「ええーっ!?もったいない……」
僕が女性もののを着たらただの不審者だよ……。
「エルーちゃんはどれがいい?」
「私はこちらでお願いします」
青い生地で白百合の描かれたものだ。
僕も気に入った柄だったので嬉しい。
クラフトしてエルーちゃんに渡すと、急に他の人の着付けをしていたシスカさんがこっちに来る。
「シエラ様、お耳、失礼いたしますね」
「ふぁあんっ……」
突如エルーちゃんに耳元で囁かれ、僕は力が抜けてへなへなと倒れこんでしまう。
そのままがばっと掴まれて二階へ運ばれると、あれよあれよと先程の青い着物に着替えさせられてしまった。
「とてもお似合いでございます……!」
どうしてこういうときの団結力は僕の想像を超えてくるのだろうか……。
「もうっ!こうなったら、エルーちゃんには私が選んだものを着て貰うから!」
黄色ベースでアサガオが描かれた可愛らしい着物を渡す。
「ありがとうございます。着替えてきますね」
……なんか僕の方しかダメージ受けてないの、理不尽だよ……。
着付けが終わり夕焼けの空、皆で街に繰り出す。
「シェリー、焼きそば食べ行こ!」
「まって、セフィー!……もう、迷子になるよ?」
思えばこの夏、いろんなことがあった。
ハインリヒの冒険者ギルドに始まり、社交界、フィストリア王家、フィストリアのギルド、聖女の偽弟子……。
夏休み前ですら濃い毎日を過ごしていたと思っていたのに、夏休みですら濃い毎日で、退屈する暇もない。
遠くからひゅるるるると音が聞こえてくると、綺麗な花火が舞い散る。
「ソラ様だぁっ!」
花や花火の形が主体だが、時々僕の顔やサクラさんの顔なんかが花火で形取られ、周りの子供達が騒ぎ立てる。
……僕の顔、この世界ではロイヤリティーフリーどころか、もはやフリー素材だよね……。
まあでも子供達が元気なのを見ると、僕も元気を貰える気がする。
「シエラ君。何やら感慨深げにしているが、この光景を守ったのは君だよ」
「そうです。こうして誰一人欠けることなく無事にお祭りを開催できているのも、シエラ様のお陰です」
エレノアさんとエルーちゃんが僕にそう言ってくれる。
「あんまり、実感ないんですよね……」
「ふっ、まるで英雄のような台詞だな」
僕はただ目の前のことに必死なだけだ。
未だにゲームのような感覚を持っているのだろうか?
いや、この世界で触れた優しさの数々が、現実味が薄くさせているのかもしれない。
「……もしかするとこれは全部夢で、目が覚めると私は向こうの世界に戻っているのかもしれませんね」
「それは、とても寂しいです」
「ふふ、そうだね。まだまだエルーちゃんには教えたいことが沢山あるからね」
「もう!師匠はすぐ私に稽古をつけたがるんですから……」
花火の音を背に、僕たちは夏の終わりを静かに感じ取っていた。




