第150話 宿縁
「……はっ!?」
目が覚めたとき、僕は寮の自室にいた。
「僕は……のぼせて……」
「ソラ様!よかった……」
エレノア様が、とても辛そうな顔をしていた。
「浮かれていたとはいえ、こんなことになるなんて……。謝っても許して貰えないかもしれないが、本当にすまなかった!」
土下座をするエレノア様。
「そんな、顔を上げてください……」
「エレノア様、貴女がなされたことは聖女様を監禁し、あろうことか命の危険に晒したのです。これは重罪に値します」
「ちょ、ちょっと待ってシスカさん!僕はこの通り元気だから!」
「そうですね、一部はとてもお元気でしたが……」
急に何を言い出すんだ、シスカさんは……。
エレノア様が首を横に振った。
「いや、親しき仲にも礼儀ありだ。本当に申し訳なかった……」
「謝罪を受け入れます。もうこんなことはしないでくれれば、それでいいですから……」
服装を確認するとパジャマに着替えているけど、どっちが着せてくれたんだろう……?
「ボクが運んだんだ。その、故意ではないが見てしまったことは謝罪するよ」
「私がお着替えをさせていただきました。その、見てしまったことは謝罪いたします……」
二人とも顔を赤くしていた。
やっぱりシスカさんにも見られちゃったのか……。
「意識を失ってもしばらく元気だったから、解放してあげたかったのだが、流石にソラ様の許可がないことにはね……」
変なものを見せてごめんなさい……。
僕も顔が熱くなる。
でも、知らないうちに初めてを失っていたりしなくてよかった……。
「ソラ様が倒れる前に言っていたことなんだが……」
そうエレノア様は話し始める。
「不安になるのはボクも同じだ。ボクだってソフィアが現れるまではよく気味悪がられて友達なんていなかった。それに、君に絶交をされてしまったら、ボクはもう立ち直れなくなるだろう。今だって君が友達を止めたいと言われたらと思うと怖くて、内心必死になっているんだ……」
「エレノア様……」
お互いに不器用で、友達という関係が壊れるのを怖がっている。
「だからボクと親友に、なってくれないか?」
「親友……」
僕の人生で二度目の提案。
この提案には、いつも受身だ。
だって、相手がどう思っているかなんて、友達を作ったことがない僕には難解だ。
人の悪口や負の感情には敏感だったけれど、他人からの好きという類いの機微はまったくわかる気がしない。
「親友として、もうソラ様に迷惑をかけることはしない。もう誘惑することもしないと誓おう。だが、気が向いたら妾にでも貰ってくれると嬉しい。ボクが好意をよせていることはこれで伝わっただろうからね」
みんなして、こんな女装男子のどこがいいんだか……。
「だが、たとえソラ様がボクを妾にしたとしても振ったとしても、お互いに友達であることを止めたりはしなければいいだろう?」
僕は目を見開く。
だが、直後に疑いの目を向ける。
「随分と僕に都合のいいことを並べられている気がするんですが……」
「何言ってるんだい?こんなにもボクにとって都合のいいことばかり並べ立てているというのに……」
まったく、この人には敵わないな……。
「親友に、様はいりません……」
目を見開くエレノア様はお風呂上がりだからなのか、美しいと思ってしまった。
「それは、お互い様だろう?ソラ君」
「……学園では怪しまれないように様をつけますからね、エレノアさん」
こうして僕にとって二人目の親友が生まれたのだった。




