閑話35 お友達
【シェリル視点】
私はセフィーとマクラレン侯爵様の持つ避暑地の別荘に招待されていた。
「シェリー!早く早く!」
「はあ、はあ……。待って、物書きにこの運動はきついよ……」
リリエラ様の提案で近くに川があるので涼みに行こうということになった。
馬車も通れないところなので、歩いていく。
「シェリーも少しは体力はつけておかないと、いざというときに困るわよ」
「リリエラ様、私はいいですから……セフィーと先に行っててください」
「嫌よ。私は三人で遊びたいのだから」
そう言われると弱る。
ゼラ家にいた時、私はリリエラ様に尽くすようお父様に命令されていた。
私はお父様に殴られたくなくて命令の通りにしていたけれど、リリエラ様はそれを知らずに私達を受け入れてくださった。
お義母様が苦しいところから私を解放してくださった救世主だとしたら、リリエラ様は私が苦しい時にいつも優しく接してくださった、私の心の拠り所だ。
お義母様を太陽に例えるなら、リリエラ様はきっと月だろう。
間違ってもこの人達の嫌がることはしたくはないし、いつまでも仲良くありたい。
「はあ、つ、ついた……」
やっと川についた私達。
水辺で腰を下ろすと、リリエラ様のメイドのメリッサさんが私にタオルを渡してくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、お嬢様といつも仲良くしてくださってありがとうございます」
「…………」
メイドのメリッサさんにもリリエラ様のような純真な面影が垣間見得て、その眩しさに思わず目をそらしてしまう。
「シェリル様?どうか、されましたか?」
メリッサさんは、こちらを覗くように確認した。
「……メリッサさんは、私が最初は家の都合でリリエラ様に取り入ろうとしていたことは知っていたでしょう?」
「ええ」
やっぱり。
「では何故、リリエラ様から引き剥がさなかったのかなと思いまして……」
私達はメリッサさんにとって、主人のご機嫌を伺うだけの存在だった。
だから主人の教育に悪いと考え、引き離そうと考えてもおかしくはないと思った。
「これは私の独り言なのですけれども」
そう断りを入れてから話し始めるメリッサさん。
メリッサさんは昔から、主の易と不易を考え、自身の考えで主の主張から外れたこともする。
要するにこれから言うことはリリエラ様が黙っていてと仰られたことなのだろう。
「お嬢様は初めから、貴女様方が家の都合でお近づきになられていることをご存じでしたよ」
「えっ……」
リリエラ様が、初めから知っていた?
「お嬢様は聡いお方ですから。それでなおお嬢様は貴女様方とお友達になりたかった。いえ、家の都合でのお友達ではなく、信頼しあえる本当のお友達になりたかったと仰っていました」
「リリエラ様……」
ああ、やはりリリエラ様は素敵なお方だ。
あのお方と本当の意味でお友達になれたことには、神様に、いやお義母様に感謝しないといけない。
「シェリル!あなたも早く!」
水着姿でセラフィーと遊ぶリリエラ様がこっちに手を振っていた。
「さ、シェリル様も」
メリッサさんが促す。
私は溢れた一筋の雫を振り落とすと、着替えてリリエラ様の下へと向かうのだった。




