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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第16章 怨望隠伏
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第125話 狼煙

「アレクシア女王様!?」

「ご健在だぞ!どういう事だ!?」


 貴族の皆が動揺しているが、一番動揺しているのはリタさんだった。


「私が病に伏しているという嘘を流したことについてとやかく言うつもりはない。それ自体は事実ではあるし、私にも落ち度がある。それに何より証拠がないことだからな」


 アレクシア女王はリタさんの隣に立つと、リタさんと向かい合う。


「だから私はこれから事実によって貴様を裁く」

「……どんな証拠があるというのかしら?」


 アレクシア女王が、ばっと書状を取り出すと、僕は映像魔法で拡大してプロジェクターのように壁に映す。


「我が兄ウィリアムは崖の下で崩れた土砂の下敷きになって死んだ。それはここにいる皆が知っているであろう。これはウィリアムにこの崖の下に財宝があると嘘をつき極秘に調査を依頼した際の書状だ。そして承認したのはリタ・フィストリアとある」


 ざわっとし出す貴族達。


「私がウィルを殺したとでも言うの!?あんなにもウィルを愛していたと言うのに、馬鹿を言わないで頂戴!」

「証拠がこれだけだったのならな。その数日前、この崖が危険である理由で補修工事が行われていたのだ。そしてその工事の承認者もリタ・フィストリアとなっていた」

「そうよ!私は危ないと主張して直そうとしていたのよ。自分で矛盾していることに気付いていないの?」


 補修工事が完璧に行われていない状態で崖に連れていっただけでも罪に問えるだろうに、随分と強気な人だ。


「そして最後の証拠だ。当時の施工を洗い出したところ、明らかに施工は土砂崩れを意図的に起こさせるために行われていた。これが当時の施工だ。どう見ても崖を崩すように割り増しで下の部分だけを削っている。その上、ご丁寧に土砂をいつでも落とせるように塞き止めの魔法をかけるような指示までされてあった」


 流石にこれに関しては言い逃れできないだろう。


「衛兵!」


 リタさんがそう言うと、数十という黒ずくめの集団が現れる。


「そもそもあんなに危篤状態だったアレクシアが、なぜここにいるの?それはどう見ても、貴女が偽者であることに他ならないわ!」


 騎士はアレクシア女王を囲い、構える。


「くっ!卑怯な……」

「女王に成り済ましているようだけれど、それじゃあ貴女に仕えた騎士はどこにいるというの?この者は女王に成り済まし、あろうことか虚偽の証言を行った。今すぐ捉えなさい!」


 この人達もきっと、あの人質達の中に家族がいたのだろう。

 睨みをきかせる衛兵に、流石に我慢の限界が訪れた。


「獏、『寝落ち(フォール・アスリープ)』」


 魔法をかけると、器用に周りの衛兵だけを眠らせる。

 ばたりばたりとその場に倒れる衛兵を横目に、僕は前に出た。


「メイドの分際で、魔法でも使ったというの……?」


 ああ、そういえばメイドのままだった。


 金髪のウィッグを外し、アイテムボックスにしまう。


「大聖女様だ!」

「大聖女様!?どうしてここに……」


 僕はこの王城の人達が聞こえる範囲まで拡声魔法をかける。


<王城の皆さん、聞いてください。あなた方が必死に守り抜いた人質は一人残らず解放いたしました。もうリタさんの命に従う必要はありません>


 少なくとも僕がどちらに荷担しているかがわかった。

 嘘だと言われようが、聖女の与える影響は大きい。

 これで少なくともリタさんへの猜疑心が生まれたはずだ。


「……さあ、観念しろリタ!貴様を守るものはもう誰もいない」


 硬直が解かれたが、まだ彼女が諦めるには至らなかった。


「……仮にもし私がウィルを殺したとして、その理由はなんだというのよ?私には彼を殺す理由がないわ!」


 そう。

 僕たちはまだこの答えにたどり着いていないのだ。


「…………」


 言い淀むアレクシア女王を制し、前に出たのはメイドのシンシアさんだった。


「リタ様、もう嘘をつくのはよろしいのではありませんか……?」

「シンシア、弁えなさい!そもそも、発言を許可した覚えはないわよ」


 さらに前に出るシンシアさん。


「貴女様に許可されなくとも、私は現女王陛下にご報告をしているだけでございます。女王陛下、リタ様がウィリアム様を殺した理由は、リタ様が隠し通してきたエレノア様の真実を知ってしまったからです」

「……どういうことだ?」

「……!?まさか貴女!?」


 急に焦り出すリタさん。

 エレノア様の真実……?


「メイドの分際で、あなた逆らう気!?」


 掴みかかろうとするリタさんに、シンシアさんはメイドとは思えない手際で背負い投げをして地面に寝技を行い拘束する。


「くっ!?」

「陛下がご無事と分かりましたから、もう貴女様に仕える道理はありません」


「エレノア様は、ウィリアム様とリタ様の間に出来たお子様ではありませんでした……」

「「えっ!?」」


 僕だけでなく、アレクシア女王とエレノア様すら驚いていたのだ。


「私はウィリアム様から託された最後の御言葉を今ここで報告させていただきます」


 ざわざわとなる観衆をよそに、淡々と言葉を紡ぐシンシアさん。


「エレノア・フィストリア様、いえエレノア殿下は、アレクシア殿下と亡き王配ディルク様との間に出来た、正真正銘本家の王女様だったのです」

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