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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第2章 雲蒸竜変
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第12話 対策

 深夜、トイレに行きたくなって目が覚めた。


 僕はベッドから降りトイレのドアを開けると、エルーちゃんの部屋だった。


「あっ……ソラ様」

「っ!ごっ、ごめん!トイレと間違えてっ!」


 左側の扉がトイレ、エルーちゃんの部屋は右。

 どちらも同じ柄のドアなので開け間違えると大惨事だ……。

 デザインは変えて欲しかった。


「……ってあれ?こんな夜遅くにお勉強?」

「あっ……これはその……」


 参考書をよく見ると、聖女学園入試と書いてある。


「もしかして、エルーちゃんも受けるの!?」


「は、はい。私が受からなくても合格者の中から学園用の従者がソラ様に付くことになるそうですが、元々聖女学園に入るための勉強はしていたので、せっかくですから受けようかと……」


 そ、そうだったんだ……。


「ってことは、もしかして毎日夜遅くに勉強を!?」


 昼間は僕の世話やメイドの仕事をしており、勉強しているところなんて目にしたことがない。


「……」


 こくりと頷くエルーちゃん。

 知らなかった……。

 今日の下着の件については急務であるとはいえ、無駄な時間を過ごさせてしまった。


「今日は連れ回しちゃってごめんね。勉強なら明日から試験まで時間取ってあげるから、今日はもう寝て!」


「ですが……」


「寝・な・さ・いっ!健康に悪いし、何よりお肌に悪いよ!」


 無理矢理に寝てもらった。僕が言えた義理でもないかもしれないけど、エルーちゃんは真面目すぎる気がするからたまに心配になる。

 明日から少しでも負担を減らして試験に集中させるようにしようと心に決めた――




 翌日、朝食が終わり着替えると僕は切り出した。


「エルーちゃん、入学試験の勉強をしましょう!」

「で、ですが……」


 他のメイドさんにエルーちゃんの分の仕事をお任せしておいたので逃げ道はない。


「それに、私自身の勉強にもなるから」

「そうなんですか?」


「人に教えることは一番の理解に繋がるの。きちんと理解していなければ、分からないところで説明に詰まってしまうから。言葉にしてみると、案外自分のわからない箇所が見えてくるものよ」


 『分からないところが分からない』。よく聞くフレーズだけど、知識そのものを調べたり、実際に誰かに説明してみると解決することが往々にしてある。

 先生に質問しようとした途端、自己解決したなんて経験がある人もいるだろう。


「なるほど……勉強になります!」

「実際に誰かに説明してみるのもいいけど、頭の中で自分に説明してみることから始めるといいかもね」


 哀しい話だが、これは友人がいなかった僕の処世術みたいなものだ。

 学校ではいじめられていたが、授業の時間は先生の目があったのでなにもされなかった。

 そう言う意味では勉強には真摯に向き合っていたのかもしれない。


「ま、それは置いといて。今日は不安な科目を中心にやりましょう。エルーちゃんは確認しておきたい科目はある?」

「ええと、暗記系のものは得意なのですが、数学と戦闘実技が苦手です……」


「戦闘実技については午後見るとして、午前は数学をやりましょうか」


「はい!」


 僕は参考書をパラパラっとめくり、ランダムに選んだページを開く。


「じゃあこの年の問題をやりましょうか。私は同じ参考書を貰ってくるから、それまでやっていて」




 執事さんに聞くと僕の勉強用に一式用意してあったみたいで、すぐに貰えた。


 エルーちゃんに課題として出した同じ年の問題を確認してみると、全体的に簡単、というか覚えた公式をそのまま当てはめるような問題がほとんどだった。

 所謂捻りのない問題だ。

 元の世界の入試だと、ひらめきが必要な応用問題を混ぜてふるい落としにかける。そうでないと満点続出で試験の意味がなくなってしまう。

 しかし、こちらの世界では基礎ばかりだ。ということは、問題を捻らなくても全て解ける人がほとんどいない、それくらいの平均学力だということになる。

 



「――……」


 追いかけるように解いていたら、こっちが先に終わっていた。

 ひと息つくと、エルーちゃんの手が止まっていることに気づいた。


「詰まってるみたいね」


「あ、はい……。ここが分からなくて……」

「その問題ね。円の公式は覚えてる?」

「はい、確かこう、であってますか?」


 すらすらと書いていく。暗記は得意って言ってたし問題はないみたいだ。


「そう。与えられた式をどうにかしてその形にできない?」


「……あっ!」


 ひらめいたみたいだ。


 カッカカカと鉛筆の走らせる音だけが聞こえてくる。


「できました!えへへ」


 太陽のような笑みに思わず嬉しくなってしまう。


「よくできました。でも、その問題はその年で一番難しい問題。後ろのページを見てご覧?」


「えっ」


 それを聞いてぺらぺらと確認し驚くエルーちゃん。


 そう、この年度の数学の応用問題はこの問題しかない。


「まだページの半分だけど、この年度はこの問題だけが難しかったの。ここに時間をかけてしまった人達を落とすような作りね」


「なるほど……」


「ここは配点が5点だけど、後ろの2点の問題を3問以上解くだけで点数が上になるの。だから前から順に解くより、まずは全体を見渡してどれからやるか考えるともっと点数が上がると思う。仕事でもそうでしょう?多分この問題を作った人は、そういう考えができる人に入学してほしいと思ったんじゃないかしら?」


 解く力はあるから、これさえ意識すれば、エルーちゃんなら問題なく合格できる気がする。


「ソラ様、知見が広がりました。ありがとうございますっ!」


「大袈裟よ。さて、お昼にしましょ。そのあとは戦闘実技ね!」

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