第117話 調査
がやがやと騒がしい冒険者ギルドのフィストリア支部。
聖国支部はまるでホテルのような綺麗さだったけど、こっちは木製主体の建造物で、荒くれ者の多そうな場所だった。
比較対象が二つしかないからまだわからないけど、腐っても鯛、これでも王都の支部だ。
きっと聖国支部が綺麗すぎるだけで、これくらいが普通なのだろう。
いつものようにカウンター……に行くのではなく、隣の部屋に行く。
冒険者ギルドはどこもそうだけど、飲食店が併設されている。
ゲームではそこではお金やアイテムを渡して代わりに冒険者から有用な情報を受け取ることができた。
がやがやとうるさかった中も、僕たちが入ってきたことで静かになる。
「見ない顔だね。注文は?」
「ここにいる全員に一杯ずつお願いします」
白金貨を10枚ほどカウンターに叩きつける。
驚く店主のおばさんに、店内が沸く。
こういうの、ちょっとやってみたかったというのもあるんだけどね……。
「景気良いな、貴族の嬢ちゃん!……どんな情報がほしい?」
荒くれ者っぽいお兄さんも、話のわかる人で助かる。
「フィストリアに来たのは久しぶりなので、最近の情勢について何か知っていたら教えてほしいです」
フィストリアが余所者に厳しいことはゲームでも解説があったから、余計な波風は立たせないように立ち回る。
まあゲームでは何度も来ていたから、嘘をついているわけではない。
「最近だとアレクシア女王の具合が悪化して崩御するかもしれねぇってことくれぇかな。すると次の女王はアイヴィ王女ってことになるんだが、彼女はまだ8歳。そんな若造に任せるのがみんな不安でならねぇのさ」
「なるほど……」
思ったより大きな話が来てびっくりした。
そんな大事なこと、サクラさんの耳にすら入っていなかったということか……。
少しきな臭い感じがしてきた……。
「これよか詳しいことはそこのゲンに聞くんだな」
「んだよ、俺は安売りするつもりはねーぞ」
腕を組む体格のいい男性がそう強気に言う。
「そうだなァ、俺と腕相撲で勝負するか、俺と結婚してくれるってんなら考えてやってもいいぜ」
「な……!?……不敬ですっ!」
僕のために怒ってくれるエルーちゃん。
「不敬って……がはは!!ここは貴族が権力を振りかざすことは禁止されている冒険者ギルドだぜ?聖女様でもねぇんだし、寝言は寝て言いな」
ぎゃははと盛り上がる周りの冒険者達。
その聖女本人だからエルーちゃんは言ってるんだけどね……。
「……そんなことでいいんですか?」
「お?なんだ?俺と結婚してくれるって言うのか?ははは!言ってみるもんだな」
ヒューヒューと囃し立てる周りの人達。
ゾクッとするようなことを言わないでほしい。
それはお互いに後悔することになると思うよ……。
僕はゲンと言う名の冒険者の机の向かいに座ると、右肘をついて手を差し出した。
「流石に手加減した方がいいですよね……そうだ、私は指一本でいいですよ」
僕がそう言うと、ぽかんとする皆。
「何言ってんだ嬢ちゃん、そんな細腕じゃ折れちまうぞ!」
ぎゃはははと笑い飛ばしてくれるが、本気なんか出したら腕が折れるのはそちらの方だ……。
「俺をからかったんだ。勝ったら今夜のお相手くらい、してくれないとなぁ!?」
「構いませんよ」
「ずりーぞゲン!羨ましすぎるぜ……。味わったら俺にも寄越してくれよな!」
面白がって審判をやり始める人も現れた。
「レディー…………ファイ!」
手を振り下ろす合図に合わせて全力で力を入れるゲンさんだが、一向にびくともしない。
「ふん!ふん!な、どうして……」
「おいおいゲン、手加減してんのか?」
これはただのカンストしたステータスでの暴力だ。
正直みていて気持ちのいいものではない。
「……人差し指でもハンデが足りなかったみたいですね……。では」
力の加減がわからなかったが、とりあえず向こうの世界の感覚で腕相撲の決着をつけようとした僕が考えなしだった。
人差し指にふん!と力をいれてそのままゲンさんの腕を勢いをつけて倒すと、そのまま机に腕をつけるどころか、バキィ!と大きな音を立てて机を真っ二つに破壊してしまった。
「あ……」
完全に力加減をミスった……。
周りの皆は固まったように唖然とし、静寂が流れる。
ゲンさんの腕は僕が捻りすぎて折れかけており、手の甲もゲンさんの腕を通して机を壊した影響で血が出ていた。
「ごめんなさい、やりすぎてしまいました……」
ヒールと唱えて腕を治し、ついでに壊してしまった机をリカバーで元に戻す。
「光属性魔法……もしかしてあんた、噂の大聖女様のお弟子様かい……?」
「あ、はい……」
噂って、こんな遠くの北の国まで広まってるのか……。
聖女関連のことって、そんなにすぐ広まるんだね……。
「なぁんだ、びっくりさせねぇでくれよ!お前さんがそうなのか!治してくれたお礼に、俺からとびきりの情報をくれてやるよ!」
奥の個室に案内され座ると、扉を閉めてゲンさんも座る。
「これは、女王の兄嫁のリタ様が企てているっていうとっておきの噂だ」
もったいつけてそう言うゲンさん。
「もしかすると、次の女王はアイヴィ王女ではなくなるかもしれねぇのさ……」




