第111話 復縁
パーティーは中止となり、僕たちは控え室にそれぞれ戻った。
「ハインリヒ王家の皆様、申し訳ありませんでした」
「そんな……あれはバフォメットの仕業ですから、仕方ありませんよ」
「マークさん、セレーナさん、こんな形になってしまい申し訳ございません……。」
シュライヒ家は僕にとって暖かかった。
でもそんな皆さんに迷惑をかけてしまうのなら、自分から手を離すべきだろう。
「本当に、考え直してはいただけないのでしょうか……?」
セレーナさんが優しい口調でそう言ってくれる。
「今回はバフォメットの仕業でしたが、いずれこうなってしまうと思います……。私はあなた達が大切だからこそ、シエラをあなた方から離すべきと考えました」
すると、リリエラさんがやって来た。
「ソラ様、小娘の戯れ言かとは存じますが、どうかお願いを聞いてはいただけないでしょうか……?」
「リリエラさん……」
「名前、覚えていただけて光栄です」
「ええ、シエラの数少ないお友達と聞いておりますから……」
そう言うと、リリエラさんは少し嬉しそうな顔をした。
「シエラさんを養子にされるお話、どうか考え直していただけないでしょうか?」
リリエラさんまでそう言うのか……。
「……理由を聞いても?」
「聖女祭でシュライヒ侯爵様方とお話した時、彼女は終始楽しそうでした。それに、シュライヒ侯爵様もまた、シエラさんのお話をしているときは本当に楽しそうにしておられました……。私はそんなシエラさん達を引き離したくはありません」
それはそうだ。
実家とは比べ物にならないくらい、シュライヒ家は居心地がよいのだから。
僕にとっては、激辛カレーとケーキくらいの差がある。
「間違いがあれば私達で正します。ですからソラ様、私たち国民を、貴族を、どうか信じてはいただけないでしょうか?」
「信じる……?」
そんな言葉、とうの昔に忘れていた。
「そうね。ソラちゃんはあの家、いやあの世界のせいかも知れないけど、他人を信じることを忘れてしまったのね……」
あの世界は自分しか信用できなかった。
「ソラちゃん、私からもお願いするわ。今はまだ難しいかもしれないけれど、どうかこの世界の人達を信じてあげて欲しいの」
僕の心はこの世界の人達に助けられた。
それなのに信頼していなかったのは僕自身だったのか……。
「……リリエラさん、間違いに気付かせてくれて、ありがとうございます」
「いえ、間違いだなんて……」
「シエラも、いい親友を持ちましたね……」
「っ、ではっ!」
「ええ」
僕はシュライヒ家の二人の前に行くと、深々と頭を下げた。
「シエラを……またお願いできますか?」
セレーナさんが涙を拭いながら頷く。
「ええ、ええ。もちろんです……」
僕はこの人達をまた家族と呼べるのが嬉しくてたまらなかった。




