第102話 庶民
受付嬢のミスティさんに案内されギルマスの部屋に通される。
「それで、遺跡の調査結果は……?」
「予想通りですかね。一応映像魔法で撮っておきはしましたけど、実物を見て貰った方が言いかと思いまして……」
「実物……?」
『――水面を照らす妖艷なる聖獣よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
魔法陣を水面のように展開すると、ぽちゃんと音を鳴らし杖を魔法陣に浸水させる。
『――顕現せよ、聖獣テティス――』
直後、ざぱぁんと音がしてティスが魔法陣から飛び出す。
「あら?早速約束、守ってくれたのね!やっぱりソラは私をうまく使ってくれるし、大好きだわ!」
まあせっかくお喋りなんだし、そこは生かしてあげないと。
それに、説明は本人がした方がいいと思っただけだ。
「聖獣……テティス様……どうして?」
「あの穴は私達の棲み家なのよ」
「えええっ!?」
「それなのに、みんなして忘れちゃうんだから。酷いったらありゃしないわ……」
「そ、そうだったのか……」
するとうーんと考え込むギルドマスターのフォードさん。
「それじゃあ、あの遺跡はそっとしておいた方がいいよな……」
「ちょっと!?そういうことをするから忘れられるんじゃない!」
「……ではどうしろと?」
「定期的に会いに来てくれないと、寂しくて死んじゃうわ!」
こんなに逞しそうなウサギはいないよ……。
「じゃあ、こういうのはどうですか?」
僕が提案したのは、ティスの遺跡を観光スポット化することだった。
人魚や聖獣と会えるし、この神秘的な祠は観光スポットとしては最適だ。
それにこうすれば、ティスが寂しくなることも少なくなるだろう。
「お喋り好きとして、お得意の相談所でも作ればいいんじゃない?」
「それいいわね!恋愛相談なら得意よ!」
かつてゲームでティスの説明に『恋愛相談を良く受けるらしいが、実は本人が恋愛をしたことはない』と書かれていたけど、あの説明はエリス様が考えたのかな……?
まあ彼女の名誉のために黙っておこう……。
「でも、エリス様に認められた高貴な私が見せ物になるというのは……」
ちょっとめんどくさいな……。
子供にも貴賤なく尻尾を振るリルを見習ってほしい。
「それに、私が人間のお金なんて貰っても使い道がないじゃない」
「それはティスがお金の使い道を知らないからだよ。いい、ティス?お金を使うとね……」
「……使うと……?」
「美味しい魚が食べられる!」
「……え?」
「は……?」
ミスティさんとフォードさんが何言ってんだこいつみたいな顔をしたけど、無視することにした。
「頑張れば、高級な魚も食べられる!」
呆れる二人に、目を輝かせて食い付くティス。
「ね、ね!ツナは毎日手に入るの?」
「ティスが頑張ればね」
「やるわ!」
「即決!?」
びたんびたんと跳ねて喜ぶティス。
「それならお金を報酬にするより、ツナを献上するようにした方がいいんじゃ……」
「最初は食べ物だけでいいですが、徐々に生活を豊かにする道具なども欲しくなってくると思いますから。今のうちに貨幣の価値を身につけて、お金を稼ぐ楽しみを学ばせておくのが良いかと」
「なんだか、一気に庶民的にしようとしていません……?」
「いいじゃないですか。一匹くらい庶民的な聖獣がいても」
喜ぶティスを眺めながら、僕はルークさんになんて説明しようかなと考えていた。




