閑話281 レベル
【蓮真視点】
「あの、蓮真様……本当にこんなことが女神様のためになるの?」
ある日、協会で祈りを捧げていると、獣人の少女が声をかけてきました。
「ええ、ナオミ。……このお告げ通りにすれば必ず、三年後にはこの痩せた畑一面に小麦を見ることができるようになることでしょう」
「私は馬鹿だから細かいことはよく分からないけど、この鉱石で村を豊かにするんだよね?でも、半年くらいもうやってるのに全然豊かにならないのはどうしてなの?昨日も隣のおじちゃんが倒れたって言ってたし、もうみんな限界だよ……」
「疑う気持ちは分かりますが、今は他の村も慢性的に飢饉であると、この地を治める鷹野子爵が仰有っておりました。大切なことは私たちがその意図を汲み取り私たち一人一人が行動に起こすことです」
「それって、どういうこと?」
「『今は我慢の時』ということですよ。むしろ大飢饉がこのくらいで収まっているのですから、私達は他の村に比べたらまだ救われている方ですよ」
「そ、そうなの……?」
ガタガタと何やら外から音がするので外に出ると、村人達が徒党を組んでやってきていました。
「おい、司祭!お前ら騙しやがったな!」
「俺達の集めた鉱石、全部子爵が受け取って」
「おやめください!私は皆様に真摯であるつもりですが、この協会は子爵様がご出資なされてお借りしている」
「だったらその子爵もグルなんだろ?」
「何を仰有るのですか!そんなことを仰有るのであれば何か証拠があるのですか?」
「それはこっちの台詞だ、馬鹿野郎!俺らはもう限界なんだよ!お前達に鉱石を預けてこの村が豊かになる証拠を出せ、証拠を!さもないと」
「そうだそうだ!」
「や、やめてよ!争ってもお腹は空くだけだよ!」
ヒートアップする村人達はついにストライキを起こしたのです。
「仕方がありませんね。私のあれは雪積もる日のことでした。いつものように協会でお祈りをしていると、どこからともなく声が雪と共に降ってきたのです。私はその太陽のような温かな声こそ大聖女様のお告げに違いないと確信いたしました。まさか、あなた達は女神様に楯突くつもりではございませんよね?」
「くっ……」
「全ては、大聖女様の思し召しのままに……――」
「――いや、私、そんなこと言ってませんよ?」
はっと後ろを振り向くと、協会のステンドグラスから後光が指したように光が舞い降りるところに、白き翼をはためかせる存在がありました。
まるで羽の生えた小さな天使――いや、そのもの。
「『聖女はフリー素材』って言われてるくらいだから、最悪私の名前を使うのは構わないんだけど、やっぱりそれで善行をするのなんてステラちゃんくらいなのかなぁ……」
「姉弟子は目立ちたがり屋ではあるものの、根は他人想いだからな。ソラちゃんもそういうところを見て彼女を弟子にしたのだろう?」
「まぁそうだけどさ。それより涼花さんがステラちゃんの妹弟子なの、毎回脳がバグりそうになるよ……」
「いいじゃないか。可愛らしい師匠と愛くるしい姉弟子に出会えて、私は幸せだよ」
「敵の前でイチャイチャするな……」
まさか、大聖女と親衛隊だと……!?
「ど、どうしてここが……っ!?」
「本当ですよ!SNSから困ってる土地の情報を取るために広めた端末を、まさか民の皆さんに使わせるのを禁止することでバレないようにするなんて……!偶然『影』がここを見に来なければ気付かなかったんですから、あなた達の鎖国的組織犯罪は」
「だが何事も出る杭は打たれるものだ。あなた達はやりすぎた。そして女神の怒りを買った」
「不死鳥の焔」
「な、なんだこれは……?」
「おお、足の痛みが治った!」
「折れてた腕が、動くぞ……!」
「おおおおっ!これが、女神様の奇跡……!」
オレンジの焔が辺りを包むと、力が涌き出るように皆が元気になります。
そしてそれは、私も同じでした――
「――しまった、司祭もカイフクさせちまった……」
「何をやってんのさ、朱雀……」
「仕方ねぇだろ?アタシはお前みたく細かいのはニガテなんだよ……」
私は一抹の不安が過りましたが、このような場所に本物が来るはずがありません。
「あなた達は身なりを見るに、冒険者ですね?村人の皆様を救ってくださったことには感謝しておりますが、聖女様を騙ることは司祭として見過ごせません!覚悟しなさいっ!」
「ここまで演じられるのも逆にすげぇよ、お前。でもそんなに騙していたら、ジブンを見失うぞ?」
「地の棘弾」
「ああ、私がでしゃばると親衛隊のお仕事がなくなるのですが、今回のは頭にきてますからね。特別ですよ」
最近購入したアイテム袋の中から杖を取り出して持つと、地面の土を集めて固め、鋭く尖らせ、銃弾のように発射しました。
「最近不本意にも現人女神になってしまったせいで、こういうことも出来るようになったんです」
「……は?」
銃弾はまるで野球のフォークボールを投げたかのように下に反れた……いや、それだけじゃなく、土を固めた魔法は段々と形を保てなくなり、砂と貸して風に消えていったのです。
「このセンリョクを前に楯突こうとするのもよく分からないけどな。とりあえずヨザイに反逆罪も追加な?」
「あなたの最大レベルを1にしました。ステータスもレベル1の時のものですので、もう魔法はろくに使えませんよ」
「それどころか、その身体じゃまともに生活するのも大変だろうな。ソラに逆らうからそうなる」
私はぺたりと地に座るしかなくなってしまった。
そして目の前に居るのが誰なのかが、やっと身体で理解してしまったのです。
「ああ、そうだ。今頃子爵のところには真桜様の部隊が行ってるから、もう子爵は捕まっている頃だろう。子爵から情報はもう漏れているから、逃げるなんて考えないことだな」
「あ、ああ……なんてことだ。はは、ははは……」
これが、大聖女ソラの所業だと。




