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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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閑話278 ミルク

【エルーシア視点】

「がんばれっ、がんばってエルーちゃんっ!」


 可愛い可愛い、私とソラ様のお子。


「ふぁーいとっ!」


 分娩室で一緒に手を握りながら、世界一可愛らしい応援をしてくださる旦那様。

 これだけで元気になれる私は、まるで彼女の黄色い声援を浴びてやる気を出す男子のよう。

 いえ、世界一素敵な方なのですから、彼の応援で元気になってしまうことは致し方ないことなのでしょう。


「んんんっっっ!!」

「出たぁ!出ましたよ!」


 先に出てきたのはエルナの方でした。


「あー、あー!」


 まだ肌色しかない小さき命がまるで輝いて見えるようでした。

 その後、気の抜けた私に変わらず応援をしてくださるソラ様のお声のお陰で、二人目も無事にお腹から抜けることができました。


「はぁっ、はぁっ……」

「頑張ったね、ありがとう!ハイヒール!」


 産まれた子を助産婦さんに任せ、こうして私のことを一番に気にかけてくださいます。

 毎日癒してくださっただけでなく、こうしてこれまでの頑張りを労い、感謝を言葉に表して撫でてくださる。


 私自身を尊重してくださる愛情が、抱き締めるその手から直接伝わってくるようでした。

 ああ、私……今、とても幸せが溢れています。

 私自身が、幸せの源泉です。


 一時期は死の間際に居たり、殺されたり、最愛の旦那様に先立たれそうになったり、忘れられたりと波乱な人生でしたが、私は無事このお方のお子を産むことができました。

 この愛おしさが抽出されて結晶となり、やがて新しい命としてエリス様が授けてくださったのです。


「ほら、二人ともエルーちゃんと僕の子だよ?」

「ふふっ、本当に可愛いですね」


 なんと可愛い我が子でしょうか。

 そしてその子を抱くソラ様の姿がなんとまあ愛らしいことか。


「エルナ、いい姉になるんだよ~?」

「あー」

「えへへ、可愛い~い!」


 にこやかに微笑む姿は、彼女と瓜二つのようです。

 私も指を近付けると、エルナは好奇心旺盛そうに掴んできました。


「スカイは昔の僕に似てるかも」

「そうなのですか?」

「うん。自信が無さそう」


 天使の輪は既に出ているようですが、羽はそのうち出てくるのでしょうか?

 如何せん子を産んだ実績はおろか、天使の子を産んだのもこの世界で初めてのことですから、何も分かりません。


「ソラ様みたく受け身になりそうですね」

「無理やり女装させるのはダメだからね?」

「そ、そんな……!」




 ◆◆◆◆◆




「それで、子供達はいいの?」

「今はソラ様にお任せしているんです。『ママとして頑張った分、できていなかったことをしなさい』と怒られてしまいまして……」

「なんというか、あの子の方がママやってるわね……」


 ある日、手持ち無沙汰でふらふらとお散歩をしていると、サクラ様にお誘いされお茶会に参加することに。

 聖女様の妻となったのですからこういった機会は増えるのでしょうが、いまだにいちメイドとしての感覚が抜けないせいか、サクラ様やサツキ様に囲まれてお茶をするのは


「サツキお姉ちゃんもママになるならそろそろお相手考えたら?」

「やばっ、やぶ蛇……」


 サツキ様が逃げるように立ち上がろうとしたその時、遠くから声が聞こえてきました。


「エルーちゃーん!」

「噂をすれば」


 二人を抱えた女装姿の旦那様が天使の羽を使って飛んできました。


「ソラ様!どうかしたのですか?」

「ご飯の時間だって。ほら、私じゃあできないから」

「ソラちゃんもそろそろミルク出せそうだけれどもね……」

「どういう理屈ですか……」

「ソラ君のミルクは()()()()()()()()でしょ?」

「も、もぉーっ!二人とも、セクハラですからねっ?」

「ふふっ、ふふふふっ。ソラ様、それではちっとも怒っているように聞こえないです」


 ソラ様はいつでも私に少しばかりの幸せを運んできてくださると、二人におっぱいをあげながら思うのでした。

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