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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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閑話266 秋の空

【橘涼花視点】

「隊長、今日くらい休んだ方が……いいのではないか?」

「え……?」


 本日は自主練の日。

 魔導具から投げられた10センチ長の竹筒を黙々と切っていたところ、ケイリー殿から声をかけられた。

 どうやら伺いをたてるように見ていたのはケイリー殿だけではなかったようで、代表してケイリー殿が聞きに来たらしい。


「そうか、私が邪魔だったか……」

「いや、集中できていないことは……少なくとも分かる」


 ケイリー殿が竹筒の切れた破片を手に取ると、切り口が斜めになっていた。


「あんなことがあったのだから、心中は御察しするが……」


 ん?


「待て、小隊長……いやケイリー殿。貴女は何を知っている?」

「ソラ様と喧嘩したのだろう?アヴリル殿がセインターに投稿していたが。確か……ええと、『【急募】激おこのソラちを宥める方法』だったか……?」

「なっ……!?」


 エルー君とともに連日暗い姿を見せてしまったのか、噂好きのインフルエンサーに拾われてしまったらしい。

 この哀れな夫婦喧嘩が全世界に知られてしまっているのが、なんとも情けない。


「同じ既婚者の女として少しくらいなら相談には乗るが……」

「本当か!?」


 思わず肩を掴んでしまい、すまないと謝る。


「ふっ……。百戦錬磨の聖女親衛隊長も惚れた男には弱いのだな……」


 私は彼女なら信頼できると思い、正直に情けない身の内話をすることにした。




「なるほど……。まぁ、私もその気持ちは分かる気がするな……」

「ケイリー殿も?」

「ああ。私の場合は初め、片想いだったからな。藤十郎がソラ様を好いていて、周りのなにも知らない人に『告白したもの勝ちなのだから、先に告白してしまえ』などと言われていたが、その時にムカついたものだ。『外野だから好き勝手言えるだけで、実際はそんなことしてうまく行くわけないだろう』とな」


 私もソラちゃんの記憶の肩代わりした時にその記憶は持っている。

 まさか師匠が私よりも先にソラちゃんに告白していたとは思わなかった。

 弟子は師に似るとはこのことか……。


「実際、私の場合は自分の信念通りに黙っていることが正解だった。ソラ様が先に性別を打ち明け藤十郎を木っ端微塵に振ってくれたお陰で今の私達があるようなものだ。ズルズルと旅に同行していたが、告白して玉砕したら故郷(フィストリア)に帰るつもりだったからな。もし先に打ち明けていたら、帰ってしまって二度と藤十郎に会うことはなかっただろう」


 いつの間にか『藤十郎』と呼び捨てになっていたことにも気付いていなかった。

 私は視野が狭くなっていたのだろうか。


「正論を言っているつもりでも、答えを知っているつもりでも、案外本音を自分の代わりに言われると反抗して『そうじゃない』と言ってしまうものなんだよ。スタートとゴールだけを結んで結論を出した相手に、少しは文句も言いたくなるだろう?」

「いつも学園で満点しか取らず、スタートとゴールを結ぶような発想をしてくるあの総督が?」

「そんな天才なソラ様が唯一苦手でいつも寄り道をしていたのが、人付き合いと恋愛だろう?」

「…………」


 ソラちゃんにとって、人付き合いは不得意ジャンルなのだろう。

 それはそうだ。

 幼少期からあんなに虐げられ、殺されそうにまでなって、自分以外全員敵のような世界で、人付き合いが得意だなんて死んでも言えないだろう。

 だからこそ毎回考えに考えて、一回唾を飲み込んで準備して、予行演習までやってやっと結論を言うのに、私達がそのスタートとゴールを勝手に結んでしまったのだ。

 『結論がそうなったからそれでいい』とは、今の私には到底言えない。


「しかしまあ……答えを言わずに『察してよ』なんて。なんとまぁソラ様も乙女らしい悩みを……いや、まぁ乙女か……?」

「ぷっ……」


 性別と心を天秤に自信の持てなくなった物言いに思わず笑ってしまった。

 だが私とエルー君も君に言っていないことが一つだけあるのだがな……。


「私だって、()()()()()()()あんなことは言いたくはなかったよ……」

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