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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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閑話252 ご寵愛

【橘涼花視点】

「いきますっ!せー」

「のっ!」


 宙に投げられた20個の丸太は、まばらな方向から弧を描いて私に向かってくる。


「「「「「氷の弾丸(アイス・バレット)!」」」」」

「「「「「炎の弾丸(フレア・バレット)!」」」」」


 そして炎と氷の弾丸がそれぞれ私と、丸太に向けて無差別に放たれる。


「――無気解放――」


 抜刀し、無属性の魔力を刀に纏わせると、無刀『夢幻』は魔法でも錆びず、魔法を切れる刃となる。

 だが刃は使わず、無属性の魔力の斬撃を飛ばして魔法を切る。

 炎の弾丸と氷の弾丸をそれぞれ真っ二つに切り裂くも、大事なのはその角度。


 刃を入れる角度を変えるだけで、引き裂いた流れ弾がどういう弾道をするのかが変わる。

 そしてその流れ弾の炎と氷同士をちょうどぶつけるように角度を調節すると、二つは打ち消しあって水蒸気となる。

 

「「「「「氷の機関銃(アイス・ガトリング)!」」」」」

「「「「「炎の機関銃(フレア・ガトリング)!」」」」」


 遅れて詠唱が完了した中級魔法は今のさらに10倍の勢いでそれぞれの属性の弾丸が私や丸太に向けて飛んでくる。

 この丸太は聖女院が経営している神社に寄贈する薪になる。

 凍ってしまえばすぐには使えないし、燃えてしまえば尚更だ。


『――無刀・夢幻の舞、消魔(しょうま)――』


 半球の半径20メートルが私の射程圏内。

 その範囲に入ったとたん、1000個の残像の斬撃を針の穴を通すように正確に。


 今度は魔法同士をぶつけて相殺するのではなく、魔法をシュレッダーのように切り刻み、丸太に当たるより手前で消す。

 だがその勢いで丸太も切ってしまえば、薪ではなく木屑になってしまう。

 だから求めるのは、射程の外側は密に、中は粗に。

 そんな無謀なことが可能なのかと聞かれれば、それこそがこの刀の存在意義であろう。

 『夢幻』は望んだものを切る刀なのだから。


「っ……」

「美しい……」


 魔法はすべて霧散し、刀を鞘に収めると、20個の丸太は綺麗に8等分されてぱかりと割れる。

 大道芸を見せられ感嘆とばかりに拍手をする一同だが、私は納得はいかなかった。


「それは隊長が、か?それとも……」

「いや、どっちもだろ……」

「魔法を粉微塵にして、それでいて丸太は傷つけずにきっちり8等分にする」

「あんな繊細なことができんの、涼花隊長だけだよな……」

「いくらレベルが上がったとしても、ステータスがあっても、あんな芸当はできる気がしないわ……」


 私は会釈をすると、付き合ってくれた魔法隊のもとへ向かう。


「もう一度だけお願いしても?」

「は、はいっ!」

「ありがとう、レディー達」


 女性の魔法隊員達に声をかけると、黄色い声を上げながらそこを離れ、定位置に戻る。


「隊長……貴女も罪な女だな」

「私が周りをどう惑わせているかは承知しているよ、ケイリー小隊長。でも私は天使の隣に立つために、より魅力的であろうとするのは何も不自然なことではないだろう?」


 ソラちゃんの妻達は年下も多く、どんどんと魅力的になっていく。

 特にリン様はここ数ヵ月で儚くも魅力的な女性に進化しているように感じる。

 私もソラちゃんの隣で胡座をかくつもりなど毛頭ない。

 強さだけでなく女としても常に磨かねば、彼はその羽を使ってどこかへと飛び去ってしまう。


「まあいい。それより、納得いっていないようだが……」


 その証明をするために、割れた一本の木片を手に取る。


「触ってみてくれ」

「……濡れている?」

「そうだ。魔法は直接は当たらなかったが、水蒸気になりきらなかった水が木片に掛かっていた」

「そこまで見えていたというのか……」

「まばらに魔力を込めて相殺できなくしたのだろう。流石はアイリーン副隊長殿といったところか」

「ストイックという言葉は、まるで隊長のためにある言葉だな……」

「そうでもないさ」


 永遠の命を手に入れた存在を守る親衛隊に意味などあるかはわからない。

 だが私は、彼に泥を被ってほしくない、ただそれだけだ。




 ――それは、温泉上がりに廊下を歩いているときのこと。

 エリス様が「やっほー」と陽気にお声がけくださった。


「褒賞で、ございますか?」

『ええ。最前線で戦った貴女達は文字通り命を賭けて私の神体(からだ)を取り戻してくれたわ。だからそのお礼よ』

「私は既に沢山の恩恵をいただいております。私の願いは……ただあのお方の隣に立たせていただくことのみです」


 ソラちゃんが神力を得て、加護を与える立場になった。

 ソラちゃんの加護はレベル上限の加護。

 彼の加護を得ればレベルは150になるらしく、ステータスも999を突破できる。

 彼が一定の好感を抱いた相手には加護が入り、親衛隊の皆もステータス上限が突破された。

 加護には属性ステータスの強化があるが、加護の上位互換が存在する。

 それは妻達が受け取った、『寵愛』。

 ソラちゃんからの寵愛の恩恵で、私はレベルを200まで上げられるようになり、ステータスも最大で倍にまでできるようになった。

 これまで以上にグミ周回が必要になり、今は地道に親衛隊達でステータスを上げているところだ。

 

 エルー君の譲歩があり、私はソラちゃんの二番目と言われているが、それは女神様が何も言わないからこそでもある。


『まぁ、聖女以外の人は私の方が立場が上なのは自覚してるわ。だからエルーにも私が勝手にプレゼントしたんだしね』


 女神様は気まぐれとばかりにくるりとその場で回り、私を指差した。


『だから褒賞はサプライズ。期待してなさい♪』

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