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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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第938話 愛猫

「ゴロゴロゴロゴロ……」


 別に雷が鳴っているわけではない。

 これまでの経緯を説明すると、こうだ。


 ドアが器用に開かれると、大きなアメリカンショートヘアのような猫が僕に襲いかかって、その肉球で僕をベッドに押し倒した。

 相手が普通の猫なら問題ないというか、むしろ爪を立てずに肉球に埋もれられるのであれば本望と言う狂信者(愛猫家)もいることだろう。


 だが大きいというのは人間の約半分ではなく人間の約二倍。

 全長三メートル程の猫が、顔にねこぱんちをしてくるようなものだ。

 まぁそれすらも狂信者にはご褒美かもしれないけど……。


「あはははっ、ふふっ、くすぐったいってばあっ!」


 そしてしばらく顔をなめ回した後猫の顔のままキスをするので僕がそれを受け入れつつ首筋を撫でていると、ゴロゴロゴロゴロと唸る声が聞こえてきたのだ。

 猫のこのような仕草は愛情表現や機嫌がいいときのものだと、以前犬猫図鑑を見て知った。

 本来はリルともっと仲良くなるために読んでいた本だが、まさか一部の妻達に通用するとは思わなかった。


「ねぇソーニャさん、人の姿は見せてくれないの?」

『心配した、罰……』


 その時、大きな雫が目から垂れてくる。

 三年を共にして、ソーニャさんの行間が読めるようになってきたけど、多分僕が約束を破って無事で帰ってこなかったことへの罰なのかもしれない。


「ごめんね、ソーニャさん。ただいま」


 獣化を解除して人の姿に戻ってはくれないみたいだが、ゴロゴロと鳴るのは止まなかった。

 きっと泣き顔を見せたくなかったのかもしれない。

 でも猫の状態でキスをしてもそういう雰囲気にはならないのは少しありがたかった。


 彼女達にはみっともない姿を見せてしまった。

 みんなのことを忘れただけでなく、離婚を迫るなんて……。

 だからこうして一人一人に誠心誠意謝るしかなかった。


『エルー、ずっと我慢してた。ソラ様、今日は我慢する。だから、エルー、慰めて』


 そして全員から一言ずつお小言を貰ったのだが、それは奇しくも全員エルーちゃんのことだった。

 いや、示し合わせたのかもしれないが、少なくともエルーちゃん本人が望んで示し合わせたわけではないことは分かる。


「わかったよ。ありがとう、ソーニャさん」

『ん』


 それにこれから起こることよりも比較的前向きに考えられるからね。




「――失礼します、ソラ様。お客様がお見えです」

『ちょっ、ハジメ!待ちなさいって!』


 ドアの奥から大きな声が聞こえてくると、やがて扉が開かれる。


「天っ、起きたのか!?」

「お、お父さん……」


 それはおよそ四年ぶりの実の家族との再会だった。

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