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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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第933話 今度

「ああいったことは記憶がお戻りになられるまでもういたしませんから、ご安心くださいませ」

「う、うん……」


 書類上とはいえ妻なんて存在がいるというのに、僕はまるで子供だ。

 でも夫婦の喧嘩なんて案外そんなものなのかもしれない。

 僕の両親も途中から父が言い返さなくなったけれど、それまでは下らない喧嘩ばかりしていた気がする。


「でも、よろしいのですか、エルーシア様……?」

「構いません。我慢するのは、今に始まったことではございませんし……。それに、これは私が多くを望んだ罪と罰ですから」

「……?」


 気になることを言われたが、その意味が分からないまま首をかしげていると、メルヴィナさんは隣の部屋に行ってしまう。


「もう変なことはしないと女神様に誓いますから、本日は床を共にしてもよろしいですか?」


 まるで甘えるように妥協点を探ってくる。

 僕も流石に邪険にしすぎたかと反省し、無理するように笑みを浮かべる彼女を受け入れることにした。




 彼女は僕の記憶を思い出すきっかけになるかと思い、僕との思い出を語ってくれた。


「私は私の故郷の聖国西の村で以前のソラ様にお心を頂きました。もちろん私もお慕いしておりましたが、立場上私から行くこともできず、情けなくもソラ様からのお言葉をずっと待っていたのです」


 この世界での常識がどうなのかはわからないけど、普通は男から言うものだろう。

 「告白されたときは感極まってしまいました」と言いながら同じベッドの下、まるで恋人のように手を繋いで横になっていた。


 先ほどもそうだけれど同い年の可憐な女の子とこんなに密着するなんてことがなかったから、とてもドキドキする。

 でも同時に、この柔らかい女の子の手を握っているとなんだか安心する気がする。

 その正体がなんなのかはよくわからなかった。


「一度目はソラ様が勇気を出してくださいました。ですから今度は、私が今のソラ様を振り向かせてみせますね」


 「今度は私の番です」と健気にそう耳元で優しく呟く。

 灯りはなく、月の光しかないこの空間で、ただ鈴虫の泣く音とエルーちゃんの声だけが聞こえてくる。

 耳は弱かったはずだけど、この子の優しい声はなんだか聞いていて落ち着く気がする。


「たとえ生まれ変わったとしても、生涯ソラ様のことをお慕いしております」


 まるでそれは記憶がない過去の僕がこの子を好きになった遍歴を辿っているかのような、そんな感覚だった。


 そこからエルーちゃんは僕が眠りにつくまで、子守唄のように僕とのたくさんの思い出を話してくれた。

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