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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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第919話 帰還

「んっ……」


 ゆさ、ゆさと揺れ、また寝てる間にエルーちゃんに襲われたのかと邪推していた。


 でも布が擦れる感じがするし、何より入っている感覚がなかった。

 相変わらず最低な判別方法だが、エルーちゃんは自分から焦らしたりはしないタイプだ。


 それにおかしい点はもうひとつあった。


 なんというか、胸がないのだ。


 いや、正確には胸っぽいものはあるんだけど、まるで骨のように硬い。

 考えられるのは、筋骨隆々の男性……?

 いや、そんなはずは……。


 僕が抱きついて回している手を少し下に降ろしてみると、何やら柔らかいものが二つあった。

 あれ?

 どうやら僕は正面を向いてお互いに抱き合っているのだと思っていたけど、僕は後ろから抱きついていたらしい。


 胸が背中にあるなんてそんな化け物みたいなことはないだろうからね。

 でも、朝から襲って、その上後ろからだなんて……誰か分からないけどお盛んだなぁ……。


「おや?」


 僕がまだ開かぬ目のままその胸の感触で誰か当てようとしていると、相手が僕のセクハラに気付いたらしい。

 そしてゆさゆさと揺れていたのは単に眠ってしまった僕が涼花さんにおんぶされていただけだったという事実に気が付いてしまった。

 自分のしてしまった勘違いに恥ずかしくなって顔がほのかに赤くなる。


「ソラちゃん、おはよう」

「ごめ、わらし……ねぼけて」

「いいよ、可愛かったからね」


 むしろ涼花さんで良かったというべきなのか、というか赤の他人だったら人生が終わっていた。

 それが悪いことだと教わっていなかったわけではないけれど、今の僕はそんな当たり前のことすら考えられないでいた。

 それは寝起きで頭が回っていないのではなく、脳の神経細胞が物理的に破壊されていっているのだと思う。

 神を人間の身に降ろすというのは、それだけ代償を伴うものなのだ。


 でもやらなきゃ、僕が死んでいた。

 だからやったことには後悔はない。


「んんぅ……」


 姉を倒して以降のことが何も覚えてない。

 多分その場で倒れたんだろう。


 もともと短命は覚悟していたけど、こんなに呂律が回らなくなるくらいに身体がいうことを聞かない。

 まるで身体中の骨が抜かれて、ぺしゃんこの皮膚と水でしおれた水風船のようになっていてうまく動かないみたいな、そんな感覚。


 そしてちょっと記憶が思い出されると、これが夢で、本当はエルーちゃんが死んだままなんじゃないかと焦りが出てきた。


「えるーひゃんは、いひてぅ?」

「大丈夫、今はエリス様達と別行動中だよ」


 あの出来事が夢でなくてほっとするのと同時に、僕はもうひとつやらなければならないことがあった。


「わらし、まだ、やらなくひゃ……」

「ほれ。もうこんなになっとるのに、まだ働こうとするでない」


 いつの間にか親衛隊の皆や神獣達と合流していたらしく、あの青龍からも心配されてしまった。


「れも……疫病(えひびょう)が……」


 邪神は僕達が魔境に来たタイミングを見計らい、魔王軍団を各国に転移魔法で襲わせたはず。

 魔王や四天王との戦い方は問題ないはずだけど、問題は魔族達と同時に紛れ込んで転移してくる疫病だ。

 上級以上の光魔法が使えないと、あの疫病は浄化できない。

 でも僕がもう一度エリス様を呼べば、この世界全域の疫病を消し去るあの魔法が使えるはず。

 だからこれは、僕の最期の……。


「疫病は既に他の聖女様方や姉弟子達が動いてくださっているよ。だからもう、休んでくれ。お願いだ……」


 あの涼花さんが、僕に向かって初めて涙を見せていた。


 それはまるでアサガオのように儚く、そして何より美しかった。


 今の僕は、そんなにもボロボロなのか。


 願わくば、もう一回エルーちゃんと天国で会いたかったな……。

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