第914話 覚醒
<――その必要はないわ――>
声の主を探して振り向くも、それが念話を通して聞こえたエリス様の声だということに気がつくのには少しばかりの時間を要した。
何故なら振り向いた先ではペンダントから溢れた水色の光がまるで膜のように死んだはずのエルーちゃんを包み込むと、そのままエルーちゃんの身体が宙に浮き始めたのだ。
エルーちゃんの身体から綺麗な天使の輪っかと天使の羽が生えると、まるで魔法少女の変身のように髪の色が水色に変わったのだった。
名前:エルーシア
種族:大天使 性別:女
ジョブ:聖女 LV.100/100
体力:999/999 魔力:583/999
攻撃:999
防御:999
知力:999
魔防:999
器用:999
俊敏:999
スキル
水属性魔法[極]・無属性魔法[極]・癒快・アイテムボックス
加護
女神エリスの加護・神獣玄武の加護・奏天の眷属
「『『エルー!!』』」
エルーちゃんはその羽で僕の前に回り込むと、そのまま僕に飛び込んで抱き締めてくれる。
『私は大丈夫です、ソラ様。ふふ、こんな姿になっちゃいましたけど……』
「それでも愛してくださいますか?」なんてあのいじらしくも太陽のように目映い笑顔がまた僕に向けられたのだ。
「『『当たり前だ……!私には、お前がいてくれるだけで……それでいいんだ…………!!』』」
抱き締めて口付けをすると、エルーちゃんの方から何かが流し込まれる。
押し寄せる水を飲み込むと、バラバラに切れていた腕が一瞬で再生した。
どうやらエルーちゃんに与えていた最後の神薬を口に含んで、それを流し込んでくれたらしい。
『もう、身嗜みはきちんとなさらないとですよ、ご主人様』
そして同時に、ふっと心が軽くなる。
ああ、やっぱりエルーちゃんに触れていると、安心する。
いつの間にか僕の魔力暴走も治まっていた。
『なっ、どうして……どうしてお前が、生き返っているのよ……っ!!』
『私は天使エルリアの生まれ変わり。たとえこの身にその記憶がなくとも、私の魂は女神様の御作りになられた身体に堪えうることができます』
<私の与えた『覚醒の雫』は天使エルリアとしての力を呼び起こすための道具。死んで魂が身体と離れたときにしか使えないけれど、渡しておいてよかったわ>
このネックレスが、エルーちゃんを助けてくれたのか。
「『『そうか、シルヴィと同じ、大天使に永遠の命を手に入れたんだな……』』」
死んでも体が朽ちても、エリス様の神力さえあれば生き返ることができる存在に、エルーちゃんはなったのだ。
敵を騙すにはまず味方から。
でもその僕の想定外のお陰で、姉ですら想定外を引き起こしていた。




