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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第100章 晴耕雨讀
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閑話237 別個体

檜葉(ひば)胡桃(くるみ)視点】

 休日、聖寮院『カエデ』の孤児区画に赴きます。

 大聖女ソラ様の改革で孤児院『カエデ』が聖寮院に様変わりした今でも、私はソラ様からこちらに通えるようにしてくださいましたの。


「胡桃姉ちゃんだ!」

「胡桃おねぇちゃん、今日は先生とケーキ焼いたの!」

「食べようぜ!」

「こら、はしたないのよ、あなた達……。ケーキを食べるのはいいですけれど、院長先生は今日のために作ってくださったのでしょう?」


 本日はお茶会。

 英才教育の賜物で今や秀才集団と化した『カエデ』では、聖女学園への入学を目指す者が増えてきました。

 試験には関係ありませんが、学園ではお茶会に呼ばれることも増えてきます。

 今のうちからこういった貴族の行事には馴れさせておくのも大事なことなのです。


「胡桃」


 その時、向こうから飴玉を食べながら配っていた存在に気がつきました。


「ソーニャ聖寮院長、ごきげんようですの。お帰りになられるなんて、珍しいですのね」


 ソラ様のお子を授かるまで戻ってこないなどと宣言なされたのに、こうして戻って来たということは……。

 そんな下世話なことを考えていると、向こうの方から爆弾を投下してきたのです。


「種付け全然出来なかった。だから院長、まだ返上」


 謎のラップを刻み始め、吹き出さずにいた私を褒めて欲しいですわ。

 流れるようにミィの両耳を後ろから塞ぎます。


「……ソーニャ様、ニックの脳を破壊して楽しいですか?」

「?」


 誰も耳を塞がなかったニックは顔を染め上げて、きっとソーニャ様のあられもない姿を想像しているんですのね、このマセガキは……。


「ニックの初恋はソーニャ様だったそうですのよ」

「ちょ、胡桃姉っ!?」

「そうなの?」

「うぐっ……」


 猫耳をぴょこぴょこさせながら首をかしげる姿は本人は意図していなさそうですが、あざといと言わざるを得ません。

 ソーニャ様は涼花様程ではございませんが、弱冠18才で冒険者Sランクにまでなったそのお身体はスタイル抜群で、それでいてあまり多くを語らない姿に学園でもたいそう人気だったのです。


「ごめん、ニック。私はソラ様が大好き。でも、ニックも好き」

「う……。慰めなんていいよ、もう過去の話だし……」

「今は別の子を追っかけてますものね」

「胡桃姉ッ!」


 ミィとはいい加減早くくっつきなさいと申しておりますのに。

 するとソーニャ様がこちらを覗いてこられました。


()()()()


 週に一度しか通っていませんでしたのに、ここには沢山お世話になりました。

 今では私がお勉強を教えることも増えましたが、『カエデ』の皆様には学ぶことの方が多くありました。

 学園に通う間もうあと一年しかここには居られませんが、こうして迎え入れてくださるのは、悪い気はいたしませんの。


「はいっ、ただいま帰りましたの!」


 私が嬉しくてそう返事をしたその時、突如乱層雲がかかったように辺りが暗くなりました。


「……来る」

「えっ」

「カカカ……」


 黒のマントに、ドクロの顔。

 悪趣味な顔が隣にあったのです。


「キシャアアアア!!!」

「リフレクトバリア」


 「魔法はあまり得意ではない」とは、きっと謙遜に違いなありません。

 そう思わせるほどの早い詠唱で即死魔法を弾き返す光景に、私は凛々しさではなく神々しささえ感じておりました。


「獣化――『なおおぉぉん!』」


 三メートルほどの巨大な猫の姿になった上半身を噛みちぎって捨てたのです。

 再生する間も無く爪攻撃を何十回と繰り返すと、骨は粉々になっておりました。


「「「……」」」


 一瞬の出来事にソーニャ様以外が何も出来ないでいると、やがて人の姿に戻りました。


「おかしい」

「な、何がでしょうか?」

「魔水晶」


 私にドロップ品を見せるも、その意図がよく分かっておりませんでした。


「ええ、ドロップしましたのね」

「そう、()()()()()()

「?」

「今さっき、北の国で魔水晶がドロップした。マヤ様から報告来てた」

「は……!?」


 そ、それはつまり……!?


「四天王の別個体が、それぞれ聖国にまだ潜んでる可能性が高い」


 ああ女神様、大聖女様。

 この子たちが、どうか無事でありますように――

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