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害獣駆除はお任せを! -モンスター退治屋さん繁盛記-  作者: 弐逸 玖
第六章 フィルネンコ事務所の休日
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クィーン=パムリィの逆鱗

「……落ち着かぬものよな」 

 誰も居ない事務所内、自分のデスクでソロヴァンをはじいていたパムリィは、数字をご破算にすると、うーん。と伸びをする。


「誰も居なくば静かで良いとも思うたが、単純にそういうわけでもない、と。ふーむ」

 普段からクリシャが、喋りながらでないと仕事が進まない。と言っているのを思い出すパムリィである。


「アクリシアの軽口や、ルンカ=リンディの小うるさい指示が聞こえんと、かえって落ち着かぬとは。意外と言えば意外ではある」

 そう言いながらふわり。と、浮き上がったパムリィはキッチンへと飛ぶ。


「お茶を入れるにも作法がある、とな。面倒くさいものよの」

 ――最も我一人では体に合った道具が無い故、作法を守れんが。キッチンで自分の分だけお茶を入れると、桶の縁に座ってそのまま飲み始める。


「普段はルンカ=リンディがうるさくてこんなことはできんからな。そこに優越感や開放感を感じる我はなんだ、と言う話でもあるか。……やれやれ、情けないことよ」


 飲み終わったカップを洗って片付け、再度自分の机に向かうパムリィである。

「休みとは言え、これだけは今日中に片づけてしまいたいものだな。……明日半日くらいは開けておかねば、きっと忙しくなるであろうしな」



 明日は午後から、駆除業者リジェクタを統括する環境保全庁の視察がある。

 フィルネンコ事務所は帝国筆頭リジェクタであり、保全庁トップの総督とも普段から懇意にしている。

 つまりは事実上、形だけの視察なのであり、基本的には所長のターニャのみが対応すればそれで良いのではあるが。


 パムリィは自分がターニャに立会うことで、フィルネンコ害獣駆除事務所が他のリジェクタとは違う。特別なチームなのだ。と言うことを強調できるのでは無いか。と考える。

 所長がピクシィを従えて視察を受けるリジェクタチームなど、帝国広しと言えどフィルネンコ事務所意外に無いし、それならば自分が在籍する意味もあるのでは無いか。

 と多少、人間的に深読みするパムリィである。


 単純に視察というものがなにをするのか、見たい部分の方が多いのだが。

 どちらにしろ仕事が無いならターニャに同行しようと文句は言われない道理ではある。

 パムリィはもう一度、ルカのデスクの上の自分のデスクに座り直すと再度ソロヴァンをはじき出す。

「休みの看板を掛けておけば客人は来ぬ、か。上手く出来て居るものよの」

 今度は周りが静かなのが功を奏して仕事は順調に進んだが。



「女王様! こんな時にこんなところでなにしてんのですっ!!」

「あぁ! わからなくなってしもうた!! ――その声はトゥリィであるな? 人間領域では声を潜めろと、お前にもミリィにもっ! 何度も何度も何度も何度も何度も何度も言うておろう!!  大声を出すなっ! しとやかにせよっ! 聞こえる最低限で話せっ! ――何ごとであるかっ!?」


 パムリィは、何ごとか書き付けていた紙を放りだして、黄色い声のふってきた斜め上を見る。

「……その、女王様の方が声が大きいのです」

 妖精の女王であるパムリィが在籍するようになってのち、敷地の一部にピクシィとフェアリィのみが抜けられるように結界に仕掛けを施してある。


 彼女の頭の上には、自身のほぼ倍の身長にワンピースを着たピンクの髪の少女。

 いつも通りに暢気にしか見えないフェアリィが、それでも多少慌てた風に浮いている。


「だいたい、何故ぬしが一人で来ておる。ミリィはどうしたか? ……もしや、アレに何かあったか?」

 保護区のお花畑に暮らすフェアリィ、ピクシィ1,087匹を仕切るトゥリィを含む“お姉様”達。

 その彼女等をまとめる“大お姉様”ミリィは、お花畑の方針について女王の決裁を求める時の連絡役でもある。


 通常、人類領域への“出張”の時は、一番年かさで、人間の言動やしきたりにも詳しいミリィ。

 彼女が同行、引率する決まりになっている。 


「大お姉様だけでないのです! みんな大変なのです! 話のできないウォーキンググラスがお花畑に15匹です……!」

「……なに!?」



 トゥリィはルカのデスクの上。

 書類の山に姿勢良く腰をかけているが、落ち着かない様子ではある。

 もっともフェアリィは普段から落ち着きが無いので、何処まで慌てているのか、表面上はよくわからないのではあるが。


 その正面にあるデスクに収まった妖精の女王。

「……1匹は、潰したのだな?」

 不機嫌そのものの顔のパムリィが、低い声で唸るように呟く。


「でも三人、……食べられてしまったです」

「弱きものは何某かのエサになり腹に収まるが道理。それがわれやぬしで無くて良かったと、先ずはそこを安堵せよ。その上で……」

 パムリィは腕組みをして不機嫌な顔のまま、ふわり。とデスクの上に舞い上がる。


「いま、ロミネイルが花畑に向かっておる。……いや、もうついておる時分やも知れんが」

「ロミネイル! ――なら、彼に助けを求めて追っ払ってもらうのです!」


「逆だ、莫迦ばか者っ! たかがウォーキンググラスの一〇や二〇、ロミネイルが事態に気が付いて駆除を始める前に、間違い無く始末をつけよ! いな? これは女王の絶対命令だっ! 逆らうものあらば……」

 ――我も今やモンスター駆除業者(せんもんか)の端くれなる。そう言いながらパムリィは身長が倍のトゥリィをめ付ける


われがこの手でウォーキンググラスもろともに。……花畑ごと、ことごとくにまとめて駆除してくれようぞっ!」

 ――も、もももももちろんです! もちろんさからわないです! トゥリィは空中で気をつけの姿勢になる。

 

「……で、でもでもでもでも、でもです! 女王様。でも時間が、ですよ? 相手がいくら草でもです、それなりにかかるです」

「本日はぬし一人で来たのかや?」


 フェアリィ達は何も害は無いと理解し、その上自分たちの女王がいるのは承知の上で。

 それでも事務所内に入るのは極力嫌がった。

「表に三人待ってますのです」


「わかった。……なればついてよ」

 パムリィはルカのペンを担ぐと納屋へと音も無く飛び、トゥリィもそれに続く。


「14匹であったな? この瓶を丸ごと、持っていけ。フェアリィが二人居れば運べよう」

「女王様、これはなんですか? なのです」

「根枯らし粉だ、頭の上に巻いてやれば動きが極端に鈍る。決して安いものでは無いが、これの代金は我が払っておこう」



 ――人間の道具に頼るは業腹だが。なんとしてもロミネイルには先んじねばならぬ以上、仕方が無い。苦虫をかみ潰したような顔でそう言うと、瓶に敷いてあった紙の「使用者」と「現場」「使用量」の部分に

【クイーン=パムリィ】【帝国モンスター保護区・依頼無し】【1瓶】

 とサインをする。



「妖精のプライドと言うものとてあろうものを。……間違い無くミリィにも伝えよ! 絶対に、なにがあろうとロミネイルにせんを越される様なこと、まかりならん! いな? ――もしもロミネイルに助力を求めるような、不細工な真似をするなら、我は女王など降りるから明日からお前がやれ! と、言うておけっ!!」


「わ、わかりましたです! 今、外の全員を呼んできてすぐ運ぶです!!」

「モタモタするな! 急がせいっ!!」

「はいはいですですっ!!」


 トゥリィは納屋の隅、結界の穴へと文字通りにすっ飛んでいく。

「我はあえて行かん! 我にここまでさせた以上はどうなったのか、ことの顛末。ミリィが直接話しに来るよう、それも合わせ伝えよっ!」

「はいですぅ!」

 


「人間に作って貰った環境の中で、基本的には人間を排除してもらって暮らしておる癖に。何故、侵入者が攻めてきた時にまで人間を頼ろうとするか! ……無様な」

 腰に手をやり、完全にお冠のパムリィの足元。


「はぁ。……ぬしらのように完全に割切って生きて行くが、本当は一番良いのだろうがな」

 緑に輝くドミネントスライム達が、いつも通りにゆらゆらと身体を揺らしていた。


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