表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/183

作戦会議だ!

「申し上げます! ヴィーグマン卿、宮廷より至急伝であります!」

 一面焼け焦げた草原の中。

 折りたたみ式の椅子に腰を下ろしたリアに、宮廷守備隊の制服を着た一人が走り寄ってくると敬礼をして手紙を渡す。

「ありがとう。……そう畏まることもないでしょう。我らとて、こういった現場は初めてであるのだし、なればこの場は貴公らの経験こそが頼りです」

「は、ヴィーグマン卿のお言葉はありがたく。……自分は哨戒任務へ戻ります!」


 親衛騎士は皇族の近衛であり、一部のまつりごとにさえ関わる側近中の側近。

 その青い制服は、彼らの仕える皇族そのもの。一兵卒の目から見れば、そう言いかえても、大きく間違ってはいないのだが。



「やれやれ。敬意を払ってくれる分にはありがたくもあるのだがなぁ。これでは、ひとたび突発事象が起こればかえって動きが鈍くなるぞ。初動が遅れる……」

「アブニーレル副長やフォリエンテ副長代理は、兵士達の受けも良い。確かに副長代理にも現場の空気を学んでこいとは言われたが……。手紙はその副長代理だろ?」

 彼女の横に歩いてきたデイブは、手紙を気にする。

 ――あぁ、代理からだが。そう言いながら手紙を広げたリアは怪訝な顔をする。


「何かあったか?」

「ポロゥ博士の身体保全に万全を尽くせ、との仰せだが。……そう言われてもなぁ」

 既にターニャ、クリシャとは別行動になっている地上班である。

「しかし、代理はなぜポロゥ博士を名指しで……?」


「副長が博士を憎からず思っている、というのは皆知っているからな。代理なりに気を使っているのだろうさ」

 宮廷内でも、自ら仕えるリンク皇子と双璧をなす。と言われる堅物オリファは有名なところ。


 当然、女性の話題とあっても相手が誰であれ、おおよそ木で鼻を括った様な態度のオリファであるのだが。

 しかしここしばらく、ことクリシャの話題になるとあからさまに相好を崩すものだから、オリファの思惑はどうあれすっかり噂になっている。

 当人がどう言おうと、可憐な容姿であるには違いないクリシャである。



「……そ、そうなのか!?」

 ――全く。手紙をたたんで懐にしまいながらリアは椅子から立ち上がる。

「分かった上で知らぬふりを決め込む。これこそが紳士淑女の作法だろうが。……宮廷に居ながら気が付かなかったなどとは。鈍いにもほどがあるぞ?」

 そういう話題には常に飢えている宮廷内である。聞こえない方がおかしい。リアがそう言うのもある意味、正しいのであった。



「しかし、俺には男女の仲というものは……」

「話は男女間だけにはとどまらん。我々宮仕えにとっては、人の機微に気が付くかどうか。それは出世どころか最悪、生死に関わる問題でもあるのだぞ?」


 リアは椅子をたたむと何気なくデイブへと渡す。

 立場は対等ではあるのだが。リンク皇子の近衛騎士団である、親衛第四騎士団見習いと第三位。おのずと差はある。


「いくら宮廷に上がったばかりとは言え、私とは同い年だろうが。ならばその程度の空気は読んでもらいたいものだな。以降気をつけろよ?」

「……あぁ、気をつける」

 とはいえ、なにをどう気を付けて良いか分からないデイブである。



「ところでデイブ。お前も、何か私に話があったのではないのか?」

「そうだった。……入り口までの安全確保はほぼ終了、2時間後に帝国防衛軍の十人隊が三個ほど援護で入るが、そのまま範囲を拡大して草刈りをやらせるか?」

「皇帝軍第一軍団から人を回すと聞いていたが国防軍か」

「殿下はそうしたかったらしいのだが、副長が見た目の影響が大きすぎるとして、話を反故ほごにしたそうだ」


 ――副長は今、大公国に向かっておられるはずだろうに。どこまで影響力が及ぶのだ、あのお方は。そう言いながらリアは額に手をやる。

「それで今後の予定だが、草刈りのローテーションを……」

「デイブ、緊急脱出口まで、距離がどのくらいか聞いているか?」

「ここから一キロ強だという話ではあったが」


「よろしい。直ちに保全庁と管理事務所の責任者をここに呼べ。国防軍の到着と同時に進軍開始。夕刻前までに緊急脱出口付近までを完全に制圧し、モンスターどもから我ら人間の手に取り戻す!」

「代理にお伺いを立てないで良いのか?」

「その代理がポロゥ博士の御身おんみの安全を最優先にせよと言ってよこしたのだ。……あそこを使って最初に出てくる可能性は博士が一番高かろう? ――そう、つまりこれは代理の命令だ」


「……それは流石さすが詭弁きべんではないのか?」

「詭弁をろうしても、それを我が主様マイロードにきちんと理由付けして説明できれば良いのだ。その程度ができずして何が親衛騎士か。貴様の仕えるあるじも、上司も。常軌を逸して忙しいのだぞ? 我らは言葉の端々からその意図を汲まねばならん」


「お前、そこまでやったら反逆罪で首が飛ぶぞ!?」

「なればその者はその程度であったと言うまでのこと。この服に袖を通した以上は言葉一つでギロチン台、そういう覚悟を持って臨め。……もう一回は言わんぞ? 関係者を大至急集めろ。緊急作戦会議だ!」

「り、了解!」





「またエラいのが居るな」

「いくら何でもわかないでしょ、そんなの」

「そこは私に言われても困るのだが」

 リア達の足下、約二十m下の機材倉庫。


「ターニャさん。彷徨える鎧ワンダリング・メイルって……」

「あぁ。騎士のなれの果て。とも言われるな。――発生経緯によって様々ではあるが、いずれ中身空っぽの鎧だ」

 冒険者見習いにターニャが答える。

 人工的に作られたものも、自然に発生したものも、双方ワンダリング・メイルではあるのだが。


「でもこの辺に自然発生する要素はない」

「なんなんですか、それ?」

「たくさんの騎士や戦士が死んだ古戦場跡のようなところでないと、ワンダリング・メイルは発生しないんだ」


 戦士や騎士達の無念が、鎧に凝縮して動き出すのがワンダリング・メイルである。

 これもモンスターに分類されている以上、退治自体はリジェクタの仕事であるのだが、ターニャはこう言うのは拝み屋の仕事だろうが。と思っている。


 一方、人工的に作り出される場合もあってこちらは名前が同じでも成り立ちは大いに異なる。

「ヘルムット、こいつは最終エリアの入り口にいるんだな?」

「あぁ。デカい剣を振り回してくるので近づけんのだ。おかげで脱出も緊急花火の打ち上げもできないでいる」 


 成り立ちとしては、簡単に言えば魔道士が人工的な魂を鎧に封入する。と言うのが普通。

 動きは“天然物”には及ばないが、いずれ事実上魂のない木偶人形。痛みも恐怖も感じないある意味完全な兵士である。

 なので。国際条約でいくさに使うことは全面的に禁止されている。


 しかも作成者は言うことを聞かせることができる。

 何かを守らせたりするのにはちょうど良いのだが。

「こんなところを堕として何がしたいってーんだ……?」

 最終エリアを堕としたところで。

 「認」と書かれた紙の入った宝箱。そしてその宝箱と同じデザインで並んで潜むミミック三匹。それしか手に入らない。




 一方クリシャは、メモ帳片手に管理事務所職員に事情聴取中。

「ダニエルさん、巨大蜘蛛ピッグ・ハンガーが居るというのは本当ですか?」

「あぁ、ヘルムットに言われてこの目で見てきた。大階段の先、二階と三階の間の踊り場みたいになってるところに居たよ」

「ダニエルさんが言うなら間違いないんだろうけど、面倒くさいのが居るなぁ」



 巨大蜘蛛ピッグ・ハンガーは名前の通り、網にかかれば豚さえ逃げられず、生き物を全てを補食すると言われる大蜘蛛のモンスター。

 

 普通の蜘蛛のように平面に巣を張るときもあれば、状況に応じて立体的な巣を張るときもある。


 平面の時は、巣にかかったものがなんであるのか。見ずとも即座に判断できるほどの情報を巣から吸い上げ。

 立体的に巣を張った場合、その部分はテリトリーとして巣の目をくぐり抜けようと大きさと位置が完全に把握できると言われる。


 そして状況に応じて巣を張り分ける器用さと頭の良さ、そしてただの生物とは行かず口からは毒を吐く。ピッグハンガーはそういうモンスターである。




「姐さんとこは動けないヤツは?」

「居ない。……三日もただ飯に預かったんだ、何でもするぞ?」

「見習い君二人は?」

「大丈夫ッス」


「私がピッグハンガー?」

「そうなるな、カタリナ姐さんの組を連れて挟み撃ちだ。……クリシャ、持ってけ」

 ターニャは、腰のスライムスライサーを外すと、クリシャに渡す。


「ターシニア。我々にも何かさせてくれないか」

「言われなくても頼むさ。子供のはしっこいの2,3人貸してくんないか? ――あぁ、ならクリシャと一緒に行ってくれ。ヘルムットはあたしと一緒な?」



「何をする気だ? 所長」

「最終エリアを取り戻して、最短距離で表に出る」

「しかし上と下、双方で準備をしないと外には出られん。さっき所長が自分でした話では地上も……」

「地上の指揮官ってのがさ。さっき本人に聞いたとこによれば、親衛第四が誇る恐怖の副長、アブニーレルさんの愛弟子なんだよ」


 ――あの人の弟子だ。ってんなら、モタモタとこっちの出方を待ってるわけがない。ターニャは話を続けながら腰の剣を抜いて刀身を見る。

「見た目は華奢だが、うちにある刀の中じゃ一番の剛剣なんだとさ。念入りにいでもらった」

「刃こぼれとかしたら、うちの“専門家”に泣かれるんじゃないの?」

「むしろ本気で打ち合ってその後、どうなるか見てみたい、とさ」

 ――マニアの考えるこたぁわかんねぇよ。そう言いながらターニャは剣をさやへと戻す。


「眠らずの騎士、アブニーレル副長の……」

「本人が聞いたら怒りそうな二つ名だな。……もう、旗竿ブッ刺して、帝国旗をなびかせながらさ。リアちゃんが出口前で椅子に座って待ってるよ。――地下は何をやっている、遅いぞっ! なんつってな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ